第15話 灼熱の猛攻

精霊の森での試練を終えたアークとフレイアは、エルフの里に戻る途中で異様な気配を感じ取っていた。焦げた匂いが鼻を突き、風に乗って熱気が漂ってくる。空の一部が赤く染まり、黒煙が遠くから立ち上がっていた。


「何かがおかしい……」フレイアは剣を構えながら呟いた。


「また森が燃えているのか?」アークもその異変に気づき、足を速めた。


エルフの里が視界に入ると、そこには信じられない光景が広がっていた。巨大な火柱が森を飲み込み、炎が空へと立ち昇っている。里を包囲するかのように火が迫り、エルフたちが必死に避難を試みていた。


「くそ……!」アークは拳を握りしめ、駆け出そうとしたその時、突然目の前に灼熱の気配が迫ってきた。


「その先には行かせん!」


低く轟く声が響き、二人の前に巨人のような男が現れた。全身を黒い鎧で包み、炎を纏った巨大な剣を握り締めている。その炎の勢いは尋常ではなく、近づくだけで肌が焼けそうなほどの熱気を放っていた。


「我が名はバーンフェルド!魔王軍の火炎将軍として、この森を焼き尽くし、エルフどもを根絶やしにしてやる!」バーンフェルドは声高に宣言し、剣を振り上げた。


「来るぞ!」フレイアは叫びながら、剣を構えた。


バーンフェルドは一瞬の隙もなく、炎を纏った剣をアークとフレイアに向かって振り下ろした。その一撃で大地が揺れ、爆発音と共に炎が辺り一面を覆った。二人は咄嗟に横へ飛び退き、炎の直撃を避けたが、周囲の木々が次々と燃え上がり、さらに里へと迫っていく。


「これは……強すぎる!」アークは炎を睨みながら汗を拭った。「どうすればこの火を止められる……?」


「アーク、水の力を使え!」フレイアは叫びながら、剣を振りかざし、風の力を呼び起こした。


しかし、フレイアが風を使うたびに、その風はバーンフェルドの炎をさらに煽り立ててしまった。炎は勢いを増し、次々と森の木々を焼き尽くしていく。


「風が逆に炎を強めてしまう……!」フレイアは焦りを隠せなかった。


その時、ノームが地面から現れ、前足で土を掻きながら素早く文字を書いた。「土で防ぐ!」


ノームは前足を振りかざし、巨大な土の壁を作り上げた。その土壁が炎を遮り、一時的に炎の進行を食い止めた。


「ノーム……ありがとう!」アークは感謝の言葉を述べ、再び湖の力を呼び起こそうとした。


バーンフェルドは炎の剣を振り回し、ノームの土壁を砕きながら進んでくる。「無駄だ!お前たちの力では、この炎を止めることはできぬ!」


アークは水の力を解放し、拳から放たれた水流が炎に飛び込んだ。水が炎に触れるたびに勢いを失うが、それでもアークは必死に水の力で炎を押し戻そうとした。


「アーク!水の力が足りない……」フレイアは歯を食いしばりながら防戦し続けた。「風を使うことができない以上、私はただ防ぐことしかできない!」


「なら、俺がもっと水を呼び起こす!」アークは湖の精霊の力をさらに呼び覚まし、今度は大きな水流を作り出した。それがバーンフェルドの炎にぶつかり、激しい蒸気を立ち上らせながら炎を抑え込もうとする。


「小細工は通用せん!」バーンフェルドはさらに炎の力を強め、巨大な火柱を作り上げた。「この炎の嵐で全てを焼き尽くしてやる!」


巨大な火柱が空へと昇り、辺り一面に火の粉が降り注いだ。アークとフレイアはその激しい炎の攻撃を避けるのに精一杯で、防戦一方に追い込まれていた。


「くそ……このままじゃ押し切られる!」アークは汗を拭い、ノームの方を見ると、彼もまた前足で地面を掻きながら土の防御を作り続けていた。


「私たちではこの炎を完全には防ぎきれない……」フレイアは冷静に状況を分析しながらも、希望を失わなかった。「けれど、この炎を押し戻すには……」


「そうだ、二人の力を合わせれば……」アークは考え込みながら、フレイアと目を合わせた。「俺の水の力と、お前の風の力を合わせれば、この炎を封じ込めることができるかもしれない!」


フレイアは頷き、彼に同意した。「まだ終わっていない。私たちならできる……!」


二人は一時的に距離を取って、戦術を練り直し始めた。バーンフェルドは炎の嵐を振りかざしながら笑い声を上げていたが、アークとフレイアの決意は揺るがなかった。


「次の一撃で、全力を出す!」アークは力強く拳を握りしめ、湖の精霊の力をさらに引き出そうとした。


「私も、風の力を……アーク、お前の力と共に!」フレイアは剣を構え、ウインドソウルの力を呼び覚ました。


激しい防戦が続く中、二人の心は次なる一撃に向けて準備を整えていた。バーンフェルドの炎の力に対抗するための決定打は、まだ訪れていない。しかし、彼らは互いの力を信じていた。


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