第16話 炎と水の衝突

空が赤黒く染まり、森全体が焼け焦げた匂いに包まれている。焦げた葉が風に舞い上がり、熱気が大地を揺るがすように吹き荒れる中、アークとフレイアは必死に耐えながらバーンフェルドと対峙していた。目の前にそびえる炎の巨人、バーンフェルドの全身からは、絶え間なく灼熱の火の粉が散り、燃えさかる炎が空へと舞い上がっていた。


「この俺の炎から逃れられる者など存在しない……!」バーンフェルドの声はまるで雷鳴のように響き、空間全体を圧倒していた。「お前たちの運命は既に決まっている。この炎の嵐に飲み込まれ、塵となれ!」


アークとフレイアはその言葉を聞きながら、かすかな焦りを感じていた。バーンフェルドの炎はまるで生き物のように勢いを増し、あたり一帯を包み込んでいく。炎が森全体に広がり、焼け焦げる木々の音が絶え間なく響く中、二人は立ち向かう術を探していた。


「アーク……このままでは、森も里も焼け尽くされてしまう!」フレイアが剣を握りしめ、厳しい表情でアークに言った。「風の力だけじゃ、この炎を煽るばかりだ……!」


アークは苦々しく地面を睨みつけ、眉をひそめた。「わかってる……風だけでは足りない。だが、どうすれば……」


その時、バーンフェルドは手を広げ、空高く炎を巻き上げた。灼熱の嵐が空を焦がしながら渦を巻き、まるで世界全体を焼き尽くそうとするかのように迫ってきた。炎の嵐は一瞬でアークとフレイアに迫り、彼らを包み込もうとしていた。


「これで終わりだ!」バーンフェルドが叫び、炎が激しく揺れ動いた。


極限の状況下、アークとフレイアはすぐさま動き出した。フレイアは剣を掲げ、必死に風の流れを操りながら炎を防ごうとしたが、その熱量に押し返されていた。風は逆に炎を煽り、炎の勢いは更に増していた。


「くそ……風が逆に働いている!」フレイアは歯を食いしばり、全力で炎を押し返そうとしたが、その手は徐々に熱に耐えられなくなっていく。


「フレイア、無理をするな!」アークが叫び、彼女の横に駆け寄った。「風だけじゃどうにもならない……だが、水の力を使えば……!」


「そうだ、アーク……お前の水の力があれば、この炎を消し去ることができるかもしれない!」フレイアは必死にアークに訴えた。「だが一人では足りない。ウインドソウルの力が必要だ……!」


「ウインドソウル……」アークは彼女の言葉に瞬間的に反応した。「風と水を一つにする剣……!」


「そうだ!」フレイアはアークに向かって手を差し出し、その眼には決意の炎が灯っていた。「ウインドソウルは、エルフの友としての力を解き放つ剣だ!私だけでは無理だが……お前がいれば、きっとこの炎を止めることができる!手を出せ、アーク!」


アークは一瞬ためらったが、すぐに彼女の手を力強く握り返した。「わかった……お前を信じる!」


その瞬間、ウインドソウルの剣が輝きを増し、風が強く渦巻き始めた。剣を中心に風が集まり、まるで生きているかのように二人を包み込んだ。だが、風だけでは足りない。フレイアはウインドソウルを高く掲げ、アークの力を引き出そうと集中した。


「アーク、今だ!お前の水の力をこの風に与えろ!」フレイアの叫びが響く中、アークは深く息を吸い込み、体内に眠る湖の精霊の力を呼び覚ました。


「いくぞ……精霊よ、俺に力を貸してくれ……!」アークは全身の魔力を集中させ、その力をフレイアの剣に送り込んだ。冷たい水の力が彼の体内から流れ出し、風と共にウインドソウルに纏わりついた。


「これだ……!この風と水の力なら……!」フレイアは驚愕しながらも、全力で剣を振り上げた。


風と水が一つに融合し、巨大な竜巻が剣先から生まれた。その竜巻は、まるで大地を切り裂くかのような勢いで回転し、天空に向かって渦を巻いていく。風は水を包み込み、冷たい水流が勢いを増しながら炎の壁に突進していった。


「これが……ウインドソウルの真の力……!」アークはその光景に圧倒されながらも、さらに力を送り続けた。「お前となら、この炎を止められる!」


「行け……ウインドソウル!」フレイアは全身の力を込めて剣を振り抜き、その竜巻をバーンフェルドに向かって放った。


竜巻はまるで天を貫く柱のように勢いを増しながら炎に突き進んだ。風と水が一体となったその力は、バーンフェルドの炎を一瞬で包み込み、激しくぶつかり合った。轟音と共に空が震え、風と炎の衝突が激しい爆発音を生み出した。


「こんなもの……俺の炎が負けるはずがない……!」バーンフェルドは驚愕しながらも、炎をさらに強く放ち続けた。しかし、竜巻の力はそれを凌駕していた。


「アーク、もう少しだ……!」フレイアが叫びながら、竜巻に全ての力を注ぎ込んだ。


「わかってる……これで終わらせる!」アークもまた全力で魔力を送り続けた。


竜巻は一層勢いを増し、ついにバーンフェルドの炎を飲み込み、彼を巻き上げていった。空へと吹き飛ばされたバーンフェルドは、まるで砂粒のように竜巻の中で消えていった。


「くそ……こんなはずが……!」バーンフェルドの叫びは、竜巻に飲み込まれ、次の瞬間には消え去った。


竜巻が天空へと舞い上がり、消えていくと共に、森全体に静寂が訪れた。炎は全て消え去り、エルフの里を覆っていた熱気もすっかり引いていた。


「やったな……!」アークは息を切らしながらフレイアを見て、微笑んだ。「俺たち……やり遂げたんだ……!」


「そうだ、お前がいなければ、これはできなかった……」フレイアも深く息をつき、剣を収めた。「これで、エルフの里も守られた……」


アークは頷き、二人は互いに感謝の視線を送り合った。

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