第10話 旅立つ2人
バグラグとの激しい戦いから数日が経ち、アークはゆっくりと目を覚ました。森の静寂に包まれ、朝の光が木々の隙間から差し込み、彼の顔を穏やかに照らしていた。体にはまだ戦いの疲れが残っていたが、少しずつ回復しつつあるのを感じていた。
「目が覚めたか、アーク?」焚き火のそばで、フレイアがこちらを見ながら微笑んでいた。
「やっと動けるようになったよ……」アークは体を起こしながら、まだ鈍い痛みが残る肩を回した。「バグラグを倒したけど、これで終わりじゃないんだよな。まだ魔王軍は残ってるはずだ。」
「そうだ。バグラグを倒しても、魔王軍の全体を崩すにはまだ遠い。」フレイアは冷静に焚き火を消しながら答えた。「お前が街に戻るわけにはいかないが、私はお前と一緒に行く。」
アークは少し驚いたが、すぐにその言葉に安心感を覚えた。「お前が一緒に来てくれるのは心強い。けど、俺は追放された身だ。街に戻るっていうのは、いろいろと面倒なことになりそうだな。」
フレイアは首を振り、「それでも、私には騎士団を守る義務がある。街を離れる前に、副団長に任を引き継がなければならない。街の守りを任せておけば安心だ。」
アークはフレイアの真剣な表情を見て頷いた。「お前の決意はわかった。俺も覚悟を決めたよ。」
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街の門近くの野営地に戻ると、副団長がすぐに現れ、フレイアに敬礼をした。彼はアークを一瞥し、少し困惑した表情を浮かべたが、すぐにフレイアに向き直った。
「フレイア団長、無事にお戻りですね。魔王軍との戦況はいかがでしたか?」副団長の声はやや緊張気味だった。
フレイアは冷静な口調で答えた。「バグラグは討ったが、まだ魔王軍の脅威は終わっていない。私はアークと共に、魔王軍の本拠地を目指すつもりだ。その間、街の守りをお前に任せる。」
副団長は目を見開き、驚いた表情を浮かべたが、すぐに真剣な顔つきに戻り、深く頷いた。「わかりました、団長。街の守りは私が責任を持ってお引き受けします。ただ……アークのことは……」
副団長が再びアークに目を向けたが、フレイアは即座に彼の言葉を遮った。「彼は私の仲間だ。疑念を持つ必要はない。彼はバグラグとの戦いで重要な役割を果たした。それ以上の説明は不要だ。」
副団長はフレイアの強い決意を感じ取り、再度深く頭を下げた。「かしこまりました、団長。どうかご無事で。」
フレイアは微笑んで副団長の肩を軽く叩き、「お前に任せたぞ、副団長。しっかり頼んだ。」と言い残し、アークと共にその場を後にした。
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次にフレイアはリリアの元へ向かった。街の賢者であるリリアは、フレイアが訪れることを予期していたかのように、彼女を出迎えた。
「フレイア、もう旅立つのね?」リリアは軽い微笑みを浮かべながら言った。
「ええ。アークと共に、魔王軍の本拠地を目指すわ。街のことは副団長に任せた。あなたも街の守りを頼む。」フレイアはリリアに向けて静かに頷き、真剣な表情を浮かべた。
リリアはその言葉に納得した様子で、彼女を見つめた。「街は安心していいわ。だけど……アークをよく見ておきなさい。彼にはまだその力が完全に解放されていない部分があるわ。」
「わかってる。彼の力が完全に目覚めるのを見届けるつもりだ。」フレイアはリリアの言葉に軽く頷き、深く感謝の念を込めて別れを告げた。
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リリアとの別れを済ませた後、フレイアとアークは再び旅立ちの準備を整えた。二人の前には広がる道があり、空は澄み渡り、柔らかな風が吹き抜けていた。
アークは最後に荷物を肩に担ぎ、深呼吸をしてから、フレイアの方を見た。「これで準備は整ったな。」
「そうだな。」フレイアは軽く笑みを浮かべ、アークに向き直った。「さあ、行こうか、エルフさん。」
その言葉に、アークは一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐに大きく笑い返した。「行こう、フレイア。」
二人は笑い合いながら、広がる大地に向かって歩き出した。これからの道は険しく、魔王軍とのさらなる戦いが待っていることは明白だったが、二人の間には確かな信頼と決意があった。
風が二人の背中をそっと押し、新たな冒険の幕開けを告げるように、静かに森の中を吹き抜けていった。
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