第5話 小鬼さん村を襲う
居住区に帰り眠りに就く。目が覚めたのは、洞窟の中がすっかり暗くなってからだった。昨日の夜実感したのだが、ゴブリンというのはどうも目があまり良くないらしく、暗いと周囲が見えない。それ故に、この状況で外に出たら危険かもしれない。
ただまぁ、ここで諦めたら男が廃るというもの。腹も減ったし、腹の痛みも大分引いたし、予定通り狩りに行きましょう。
流石にこの時間になると外に出る人は少なくなるのかと思いきや、昼間と比べても人数は大して変わらないように感じた。生活リズムという言葉はゴブリンには存在しないらしい。
確かに薄暗い洞窟の中で常に暮らしている訳だし、太陽の動きに合わせて一日生活するなどということはなさそうだった。
午前中と同じように、外に出て行きそうな集団の後ろを歩く。ただし朝と比べて集団の人数は多く、人が一人増えたところで気にもされていないようだった。
先頭を歩いているゴブリンは、当然のように黒に近いゴブリンだった。そしてその周囲には深い緑のゴブリンが数匹付き添うように歩いている。
色が濃いと体の大きさも大きくなるという話はしたと思うが、戦闘を歩くゴブリンはその基準に当てはめても大きな体躯だった。筋肉質、肉厚な体に、身長もかなり高い。それだけ体に恵まれていたら魔物と闘うのも楽だろう。
いつも通り外に出て、そのまま想像以上にゆっくりと進んで行く。午前中の集団のリーダーはパワハラ体質だったのだろうか。このぐらい下っ端の体力にも気を遣ってくれるというのは非常にありがたい。
そして、進む速度が遅いことに加えて着目すべきは、この人数を以てしてかなり静かに歩いていることだろう。
獲物の元に素早く辿り着くか、それとも獲物にバレないように進むか。どちらが正しいかは分からないが、やはり体力的な面では後者の方がありがたかった。周囲の下っ端ゴブリンたちも随分と顔色が良く見える。
そのまま長いこと歩いていると、急に隊が半分に別れる。慌ててその片方について行くと、前を歩いていたゴブリンが顔を顰めてこちらを睨みつけて来た。
少し音を立てたのが気になったらしい。すいませんね。
朝も使ったナイフを手に握って、感触を確かめる。暗い森の中で、遠くに明かりが見えていた。松明か何かを持っているのだろう。明かり、ということは人間か。
辿り着いたのは柵で囲まれた村だった。
先頭に立っていたゴブリンの合図で、隊が一斉に村に襲い掛かって行く。柵を壊し、雪崩れ込むようにしてそれぞれの家の中に殴り込む。
俺があたふたしている間に、段々と隊は村を殲滅して行く。時折腕の立ちそうな男が出てくるが、流石に数の暴力で殴られてはたまらないらしく、直ぐに崩れて行く。夜間の奇襲だったのが功を奏したのか、これと言ってこちらが手こずるような場面はない。
呼吸を整えて、攻勢に参加する。木造の家の中に三匹で跳び込むと、その中では夫婦が寝ていた。
起きて抵抗されても困るので、寝ている夫の首筋にナイフを突き立てる。血が噴き出して、良く分からない音を喉から響かせながら、男は絶命した。
妻の方も、気が付いて逃げ出そうとしているのを追い掛け、ナイフを振り下ろそうと────途端、後ろにいたゴブリンに殴られた。
「何だよ、おい」
「連れて帰レ」
そうか、繁殖用か。忘れていた。
連れて帰るのは流石に面倒だから、この女の対応は他の奴に任せよう。一緒に家の中に入って来たゴブリンたちは、既に子供を殺して外に出ている。
殴って来たゴブリンに女を突き渡し、自分は外に飛び出した。
家々は既にほとんどが半壊していた。そもそも規模の小さい村だったために、あまり時間は掛からなかったようだ。
まぁ、黒ゴブリンがだいぶ活躍していたというのも大きいだろう。拳一つで扉を吹き飛ばして家の中に飛び込んでいく姿は流石に豪快だった。
事が済んで、全員で撤退する。
ゴブリン側も被害はゼロではなかったようで、数匹は息絶えた状態で地面に転がっていた。しかし全体として、こちらの損害は少ない。この被害で、しかもこの短時間で村一つを壊滅させられたことを思うと、随分と効率が良い。
この調子で人間を殲滅できるのだったら、直ぐにこの世から人間がいなくなると思うのだが、どうなのだろうか。この程度の警備の村が今まで壊滅せずに残っていたことも謎だった。
今気にしても仕方がないか。ひとまずは出来るだけ戦闘経験を積みたい。細かいことは忘れよう。
加えて、気になっていることも幾つかある。端的に言ってしまえば、色の濃いゴブリンになるための条件についてだが。まぁ、これに関しても、もう少し検証をしてから色々と考えてみようと思う。
一先ず、ゴブリン集団と共に闘っていてもあまり不都合はないことが分かった。他のゴブリンもこのような生活をしていて強くなったのだろうし、同じ生活を俺も続けていければそれで良いだろう。
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