第55話 力分を倒すには

「そうだな。力分を倒さなければどうにもならない」

「……そもそも力分はどのような者なのですか?」


 桃玉からの問いに桃婆はそうじゃのう……。と身体の前で手を組んだ。


「あの殺気に仙女を喰らうという点からして、強者である事に間違いはないが、実体はまだわからんのう……」

「思ったのだが、青美人のような白い大蛇のあやかしである可能性はあるか? 青美人と同じ尻尾を見せていたし」


 龍環からの問いに桃婆は確かにそうでございますな。とうなづく。


「とりあえず、青美人と同種ないし近い種類だとして話を進めてまいりましょうかね」

「そうしよう。桃婆さん、よろしく頼む」

「まずは鱗。青美人のあの鱗は浄化の光の球でなければ傷つける事は出来ないくらいに堅牢なものじゃった。青美人と同等かそれ以上の堅牢さを持っていても不思議ではありませぬ。次には身体の大きさでございますな。大きければ大きい程多くの者達に被害を及ぼす」

「それは出来る限り避けたい所だな」


 龍環の言葉に美琳はそうでございますね。と返す。


「先ほどの攻撃で市場はおそらくズタボロになっていると思います……。出来る事ならお店の様子だけでも見に行きたい気分なのですが」

「美琳。気持ちは分かるが今はいかん方が良い。さっきはワシの神通力でなんとかなったが、また再発するやもしれんからの」

「そうだよな、桃婆さん」

「美琳。店の様子が気になるならワシがのぞきに行ってこよう。なあに、すぐに戻って来るさ」


 桃婆からの提案に、美琳は良いのかい? と返すが彼女はにっこりと微笑んで窓の扉を開けると風に乗って空へと飛んでいったのだった。


「いやあ、仙女というのはすごい存在だなあ……」

 

 次第に小さくなっていく桃婆に龍環は驚いていた。


「桃婆さんは仙女の中でも特に能力に秀でておりますから。それにさっきの白仙桃とか、仙桃の栽培でも有名らしくそれで桃婆さんと呼ばれるようになったみたいですね」

「へえ、美琳さん詳しいんだね」


 ははは……。と後頭部をかきながら照れ笑いをする美琳へ、玉琳がくすっと笑う。


「もしかして、私のお母さんも空を飛んだりできたのかな? 桃婆さんと同じ仙女だったという事は……」


 桃玉の呟きに、龍環はふふっと笑った。


「出来たんじゃないか?」

「あれ、龍環様は私のお母さんが仙女だったのをご存じだったのですか?」

「さっき桃婆さんから聞いたんだ」

「そうでしたか……お母さん、私が怪我した時はいつも怪我を治してくれていたんです。多分それが神通力によりものだったのでしょうけれど……それだけですね。お母さんの神通力を見たのは」

「そうか……そのような事があったのだな。……必ず敵を取らねばならんな」

「はい。それにもう被害者が出ないようにしなければ。とも思います」

 

 桃玉の決意のこもった瞳は、龍環の胸の奥を確かに射抜いた。


「そうだな。もう力分に食われて死ぬ者が二度と出ないようにしなければならない。今、この瞬間にも誰かが犠牲になっているかもしれないから」

「おおぉぉい!」


 窓の扉が自動的に開かれると桃婆が戻って来た。


「市場は入り口付近が少し壊滅状態になってございました。美琳の店は大丈夫そうではありますが、民はもう完全におびえきっておりますし、それに宮廷で人食いのあやかし出ると噂になっておりまする」

「桃婆さんおかえりなさい」

「妃や女官達も皆、後宮から別の場所に逃げおおせたようでございますな」

「どこへ逃げたかわかるか?」

「どうも、ここから近い離宮に逃げたとか」


 龍環と桃玉はほっと息を吐いて安堵した。


(良かった……皆無事だったんだ)

「教えてくれてありがとう、桃婆さん」

「礼には及びませんよぅ。では作戦会議に戻りましょうぞ」


 円になって座る桃玉達。桃婆は戦う場所は宮廷か広大な場所の方がいいのではないでしょうか? と自分の考えを述べた。


「なるほど……」

「相手は大きなあやかしである可能性が高い。それなら広大で人のいない場所の方がよろしいでしょう。逆に市場で戦うとなると被害が増えてしまいます」

「確かにそうだな。だが宮廷にはまだ兵士など人がいるだろう。となれば……」

「ここから少し東に進んだ場所にはかつての古戦場がございます。そこは野原で集落は見当たりませぬな」

「野原に力分を誘導させるか」

「そうでございますな。古戦場は山々に囲まれておりますゆえ、隠れ場所もありまする」

(身を隠す事も出来るって事ね)


 決戦の場所が決まった後は、いかにして力分をおびき出すか。という話となった。


「……果たし状でも送ってみるか? これまで真面目に職務に当たって来たやつだ。正々堂々と戦うとなれば拒否はしないだろう」

「敢えての正々堂々と、ですか?」

「ああ、桃玉。正々堂々と挑まれたらあちらも断る理由は無いだろう。あいつの目論見は穏やかに暮らす事。極力被害を出して有名人になりたくないだろうしな」

(正直、あやかしで人を食べねば生きていけない以上、穏やかには暮らせなさそうだけど……どうしてそう考えるようになったんだろう?)


 力分をおびき寄せる方法が決まった所で、美琳がちょっといいでしょうか? と声を出した。

 

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