第18話 両親が作っていた桃
「見た目と色合い……間違いない、お父さんとお母さんが作っていた桃のような気がする……! だけど仙桃? そんな桃だったっけ……?」
桃玉は感覚を研ぎ澄まさせ、当時食べた桃の味わいを思い出す。
(でも、これまで食べてきた桃とは特に変わった点は無かったような……そりゃあ両親が栽培した桃が一番美味しいのはそうだけど)
桃玉は更に本を読み進める。
「仙桃……それは仙女にしか栽培できない幻の桃……」
仙女にしか栽培できない。という文言に桃玉はぴたりと目を留めた。
(仙女……お母さんが仙女? あ、もしかして……)
桃玉の脳裏に浮かんだのは、幼い頃にけがで出血した桃玉の手を握り、傷を癒す母親の姿だった。
(もしかして、私の母親は……? いや、まさかな……そういう手品かもしれないし)
「桃玉様!」
「はい!」
「佳淑妃様がお越しになりました……!」
「えっ?!」
佳淑妃の突然の訪問に、桃玉は慌てながら読んでいた本をぱっと閉じて棚へと戻した。それと同時に佳淑妃が女官達を伴って現れる。
「桃玉。いきなりたずねてきてすまないな」
「あっいえ! こちらこそ歓迎のご準備できてなくてもっ申し訳ないです……!」
「まあいい、座れ。焦りは何も生みださない」
「は、はい……ではお言葉に甘えて」
女官達がささっとお茶とお菓子を用意し、佳淑妃と桃玉へ手渡してくれた。お茶の入った茶器は陶磁器で美しい花柄の文様が描かれている。佳淑妃は赤い瞳をきらきらと輝かせながら興味深そうに茶器を覗き込んだ。
「ふむ、美しい茶器だな……素晴らしい」
佳淑妃からの言葉に、桃玉付きの女官が礼を返した。
「ふふ、結構。話に入ろう。桃玉はこの後宮の暮らしには慣れてきたか?」
「はい。おかげさまで……」
「そうか。それなら良い。夜伽はどうだったか?」
(どうだったか……でも作戦会議の事を伝える訳にもいかないし)
「何もありませんでした」
桃玉の言葉に、佳淑妃は目を閉じ咀嚼するようにして首を振った。
「やはり、か……」
「?」
「皇帝陛下はな、これまで一度も夜伽で妃を抱いた事が無いのだ。だからお世継ぎどころか子供もいない」
「……え?」
佳淑妃からの話に桃玉は目を丸くさせた。
「まあ、皇帝陛下は即位したばかりでいらっしゃる。まだ好みの妃がいないだけだろう。いずれこの問題も解消されると私は信じているよ」
「……佳淑妃様は夜伽には……」
「何度かあるが、何もなかった。他愛のない話を交わし、手を握ったくらいだったかな」
佳淑妃は茶器を机の上に置き、自身の右手を愛おしそうに眺める。
「私は皇帝陛下にこの身を捧げ忠義を尽くすだけだ……だが、皇太后陛下は一刻も早く世継ぎを、と望んでおいでだからな……」
(龍環様と皇太后陛下には……深い溝がありそうだな)
「ああ、そうだ。妹と話をせねばならない。すまないが私はこれにて」
話を終えた佳淑妃は、困ったらいつでも私を頼るが良い。と言い残し、自身の住まいへと去っていった。
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