第29話 誰の仕業か
「となると、梓晴を拉致した者が宮廷に紛れ込んでいるという事でしょうか?」
「そう見て良いと思う。だが、調べによると梓晴と同時期に姿を消した宦官女官下女は誰もいないんだ」
梓晴を拉致した者が宮人に成り済ましていたという線は消えるとなると、外部から誰かが侵入したという線が残るという事になる。
「宮廷内の警備を厳重にせねばならないな。……ぐっ」
「陛下?」
龍環は右こめかみ付近を抑えてその場にうずくまった。
「陛下!? 大丈夫ですか!?」
「あ、頭痛がしただけだ……問題ない」
「すぐに立ち上がらない方が……」
龍環は桃玉の静止を振り切るようにして立ち上がると宦官にテキパキと指示を出す。
皇帝ならばこの程度で音を上げられない。彼はそんな強い気持ちを纏っていた。
「あの、陛下に痛み止めの処方を……」
龍環の隙をついて桃玉は彼に付き従う中年くらいの宦官に声をかけた。
「実は朝すでに飲まれていまして……」
「薬を変えてみては? あっていないかもしれないですし」
「確かにそれはありそうですね。医者と薬師にも話してみます」
「お願いします」
桃玉が宦官に頭を下げた所で龍環は何を話していたのかと桃玉に聞いた。
「あっ、いえ、なんでもありません」
「そうか」
龍環はそれ以上追及する事はなく、宦官らを付き従えて自身の居住区へと消えていった。彼の背中を桃玉はじっと見つめる。
(大丈夫かなあ……心配だ)
◇ ◇ ◇
皇太后の夕方の挨拶に赴く前に、螺鈿で装飾された手鏡で自身の姿を確認していた桃玉の元に、中年くらいの華奢な宦官が部屋に入って来た。
「桃玉様。今日の夜伽相手に指名されました事をご報告しにまいりました」
だが、桃玉はう――ん。と考え込む。なぜなら彼女はつい先ほど月のものが到来したからである。そして華龍国の後宮には月のものが訪れている妃とは夜伽が出来ない決まりがあり、その場合は違う妃を選ぶ必要があるのだ。
桃玉はその事を正直に宦官へ打ち明ける。閨では龍環との作戦会議が主で行為はしないとはいえ、決まりは決まりだからだ。
「かしこまりました。陛下にご報告しておきます」
「すみませんがよろしくお願いします」
バタバタと慌てて宦官が退出していくのを見届けてから、桃玉は椅子から立ち上がり、皇太后のいる朱龍宮へと向けて歩き出した。
(こういう時に月のものが来るなんてついてないな……)
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