第33話 照天宮でのお茶会

 夕方。約束通り桃玉の部屋に龍環が訪れた。


「待たせたな。では人払いを頼む」

「いえ、陛下はこちらへどうぞ」


 お菓子や茶器などが用意された円卓の席に案内する桃玉。しかし龍環が座ったのは桃玉の架子床の上だった。


「ふう……これでくつろげる」

「良いのですか? そんな……」

「人払いはしたから大丈夫。気にしないでいいよ。桃玉もこっち来たら?」

「あ……」


 ぽんぽんと布団の上を叩く龍環。桃玉は2人分の茶杯にお茶を注ぎ、それを持って龍環の左隣に座った。


「熱いのでお気をつけて」

「ありがとう。ちょうど喉が渇いていたんだよね」


 ごくごくとゆっくりお茶を飲む龍環を桃玉はじっと見つめている。


「ん、美味しい。桃玉ってお茶入れるのうまいんじゃない?」

「そうでしょうか? でもそう仰っていただき光栄です」

「ははっ、桃玉らしいな。じゃあ本題に入ろう。実は今回の事件。ある共通点があるのはもうわかっているね?」

「はい、心臓がくりぬかれている……という事ですよね」

「ああ、そうだ。それで君に打ち明けたいと思っている事がある」

(何だろう……?)


 龍環はぐっとお茶を飲み、空になった茶杯を自身のそばにおくと両手を組んだ。そして桃玉をじっと真剣な瞳で見つめる。


「俺の産みの母親と同じ亡くなり方なんだよ」

「え……あ、あ……」

「母親を失った俺はそのまま今の皇太后に引き取られる事になった。当時は皇后だった彼女だけど、まだ子供がいなかったからね」

 

 龍環の産みの母親は先帝の妃かつ美人の位であり、妃としてはあまり高くない地位にいた。それでも先帝からの寵愛を得た彼女は龍環を産んだ。だが、子供を産んでしばらく経ったのち彼女は何者かに心臓をくりぬかれて殺されてしまったのである。


「どうやってその事を知ったのですか?」

「書物庫に当時の記録が残されていたからね。でも皇太后である母上はこの事を俺に話そうとはしなかった」

「……言いたくなかったのでしょうね」

「ああ、聞くたびにその話はしたくない! と一点張りだったからな。もう二度と聞く事はないだろう」

(なるほどな……ああ、私もこの事を打ち明けた方が良いのかな。龍環様が言ってくれたんだもの。私も言わなきゃずるいかもしれない)


 決意を固めた桃玉は茶杯をぎゅっと握りしめた。


「あのですね。私の両親も同じように心臓をくりぬかれて殺されたんです」

「なんだって……?」

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