第16話 鶴峰宮のあやかし①

「あ、李昭容様……! 私が何かしでかしたのでしたら申し訳なく……!」


 美人と昭容の位の差のせいか、金美人は怯えきった表情を浮かべていた。


「落ち着いてください……! こちらこそ怯えさせてしまってすみません! あのですね、今からあなたの女官達がいらっしゃるお部屋にお邪魔したいと考えてまして……!」

「わ、私の部屋に……ですか?」


 怯えた表情から一転してキョトンとした表情を見せる金美人に、桃玉はそうなのです。と告げた。


「私は大丈夫ですよ……! しかしながら、今は亡くなった女官の検死で医者や宦官達が慌ただしくしているだろうから……」

「大丈夫です。邪魔になるような事はしません」


◇ ◇ ◇


 鶴峰宮にある、金美人付きの女官の部屋に到着した桃玉は早速辺りにいた女官から話を聞いてみる事にする。

 しかし、女官達のほとんどが青白い顔をしていた。


「あの、最近女官達の体調がすぐれないと聞いてますが」

「り、李昭容様……!」

「驚かないでください、その、さっきの話なんですが……」

「ああ、そうなのです。皆顔が真っ青になっていき倦怠感に苛まれて寝込んで行き……」

(それが病状って訳ね)

「その、体調を崩して寝込んでいる女官のお部屋は……」

「桃玉!」


 後ろから龍環が配下を引き連れて小走りでやって来た。


「龍環様……!」

「桃玉、この近くか?!」

「女官の方、お部屋はこの近くでしょうか?」

「はい、ご案内いたします……!」


 女官が案内する方向に従い、桃玉と龍環が向かう。


「こちらです……!」


 女官のいる部屋の扉が開かれる。そこには妃の部屋よりもやや簡素な2人部屋があった。右側の架子床の上には女官が1人、横になっている。女官は目を閉じており、意識が朦朧としているようだ。


「!」


 女官とその架子床を見た龍環が驚きの声をあげた。


「架子床の右下に、蜘蛛のようなあやかしがいる! それも複数だ!」

「そうなのですか!?」

「ああ、黒い蜘蛛のようなあやかしだ! 手を向けながら気をつけて進め……!」

「はい!」


 桃玉は右手を突き出し力を込めながらゆっくりと前に進み屈む。蜘蛛のようなあやかしは架子床の右下に潜みながら桃玉に対して威嚇した。


「力を解き放て!」

「はい!」


 桃玉は右手の手のひらにありったけの力を込めた。


「わっ……!」


 彼女の右手のひらから、青白い美しい光が球となって蜘蛛のようなあやかしの身体を包む。その光を桃玉ははっきりと見ていた。


(すごい! これが、私の力、浄化の力なんだ……!)


 青白い光に包まれた蜘蛛のようなあやかしはそのまま浄化され消えていく。


「あやかしが消えていってる……!」

「ほんとですか?!」

「そうとも! だが油断するな、力を弱めるな!」

「はい!」


 龍環から檄を飛ばされた桃玉は集中し続ける。


「あと少し……!」

「はい!」


 そして蜘蛛のようなあやかしは全て浄化された。


「……桃玉。全て浄化されたぞ」

「はあ……はあ……」


 桃玉は息を切らしながら、龍環を見た。


「よくやった。だが……」

「多分、まだいるんですよね?」

「ああ、そうだ。亡くなった女官の部屋には……」

(もっとやばいやつがいる、って事よね……)

「桃玉、まだいけるか?」

「……はい!」


 決意を込めた目つきで桃玉は龍環を見た。龍環は桃玉の目を見て力強く頷く。


「あ……」


 架子床の上で横になっていた女官の意識が戻り、青白くなっていた顔の血色は元に戻っていく。


「大丈夫ですか?」

「あ……あなたは……」

「李桃玉です。体調はいかがですか?」

「あれ……? あんなにしんどかったのに……すっかり元気になった気がします」


 女官はすくっと架子床から立ち上がると、桃玉と龍環に向けて頭を下げた。

 

「あ、ありがとうございます……」

「いえいえ。では、これにて……!」

「桃玉、次だ……!」


 龍環に手を引かれながら桃玉は、体調を崩している女官のいる部屋を次々と周り、あやかしを見つけては浄化していった。


「よし、これで最後ですね……!」

「そうだ。後は……」

「うわっ! 誰か!」


 突如、宦官の叫びが聞こえてきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る