第51話 青美人との戦い②

「桃婆さん……お願いします!」

「ほほほ、よろしい。そしてそこにいるのは……皇帝陛下じゃの。お初にお目にかかりまする。ワシはただのしがない仙女でございます」

「そうか……! えっと、君は桃玉が言ってたように桃婆さんと呼べばいいのか?」

「そのように呼んでくれたら嬉しい限りでございます。さて、この戦、陛下はどうされますかの?」

「俺も一緒に戦う」


 覚悟を決めた龍環に、桃婆はうんうん。と首を縦に振った。


「皇帝陛下も共に戦ってくれるとは……ますますやる気がみなぎってまいりましたぞい」

「陛下の邪魔をしないで……!」

「ほれ」


 桃婆は再度八角形の結界を張った。半透明の結界には夜明けとともに空に浮かんできた朝日の光が反射し、キラキラと煌めいている。


「ぐぅっ!」

「そなたの攻撃では通らんよ。ほほほ。桃玉や、浄化の力を再度ぶつけるのじゃ。結界はそなたの浄化の力ならすり抜けできるようにしておる」

「了解です!」


 桃玉が両手の手のひらを青美人に向けて浄化の光の球を放つと、それらは結界はまるでなかったかのようにすり抜けて青美人の身体に当たっていく。青美人の身体はあちこちに傷がつき、緑色の血が出ていた。


「ぐっ……ああっ……」

「その勢いで力を放つのじゃ!」

「はい!」

「だいぶ体力を消耗しているように見えるな。ここが踏ん張りどころだぞ!」


 桃婆が張った結界のおかげで、青美人の連続攻撃もなんのその。桃玉は結界ぎりぎりまで近づいて至近距離から浄化の光の球を青美人に打つ。


「これでっ浄化されて……!」

「い、いやよ! 私はまだ死にたくないんだから……!」

「よし、桃玉よ、両手の手のひらを重ねてそこに浄化の力を溜めるのじゃ」


 桃婆の指示通りにすると、桃玉の手のひらの隙間から青白い光があふれ出した。


「そしてゆっくりゆっくりと手のひらを離すのじゃ」

「こ、こうですか!」

「そうじゃ! よし、それくらいになった所で手で円を作れ!」

「は、はい!」


 指示通りに手を動かすと、まるで巨大な光の球を桃玉が持っているかのような状態となった。


「光の球が大きくなったじゃろう? その光の球をあやつにぶつけるのじゃ!」

「はい!」

「っ!」


 後ろへ振り向き逃げようとする青美人。桃玉は青美人めがけて人の頭よりも更に大きくなった巨大な光の球を右手で投げた。

 投げた光の球は見事青美人の胴体に当たった。


「が……あ……」

「当たった!」


 青美人は力なく倒れていく。そして桃玉が放った浄化の光の球に導かれるようにして天へと上がっていき、消滅していった。


「……消えたの。浄化成功じゃ」

「……これで終わったんですね……」


 青美人が消滅していった先を見つめる3人。しかし彼らの空気を切り裂くようにしてぱちぱち……と1人の男による拍手の音が鳴らされる。


「まさかまさか。青美人まで浄化してしまうとは……恐るべし仙女の力でございますね」

「力分……!」


 いつの間にか力分が現場へと来ていた。すると桃婆の顔から血の気が引く。


「……この空気はまずいぞ」

「え?」

「こやつを相手にするのはちと分が悪い。早く逃げるのじゃ!」


 桃婆が桃玉と龍環の手を引き空へと飛びあがった。力分は指を鳴らすと彼の周囲から黒い影がツルのような形となって3人に襲い掛かる。


「逃しませんよ」

「なっ……2人ともしっかり捕まってくだせえっ!」

「は、はいっ!」


 桃婆は2人を連れて力分からの攻撃をかわしながら、桃玉がいた屋敷へと飛んで帰った。屋敷の3階に到着すると扉が自動的に閉じ、ツルの攻撃を防ぐ。

 桃婆と2人は床の上に転がりながら、はあはあ……と肩で息を吐いた。


「ここまでくれば安心じゃ……ここには強力な結界が張っておる。あやつもこれんじゃろう……」

「りゅ、龍環様……大丈夫ですか?」

「ああ、俺は大丈夫だ。桃玉と桃婆さんは無事か?」


 桃玉と桃婆がそろって無事である事を告げると、龍環はほっと息をついた。


「皇帝陛下……。先ほどの者は何者でございますか?」

「ああ、桃婆さん。あれは青力分と言って、宮廷で働く宦官なんだ」

「ほほう……そうでございましたか。あの妖気はこれまで相手してきたあやかしの中でも、最も強く悪意に満ち溢れていたものでございました……」

「!」


 桃婆の力分評に、龍環と桃玉は息を呑む。すると美琳が玉琳を連れてドタドタと階段を駆け上がってきた。


「皆さん! えっとご無事ですか? いやあ、まさか桃玉さんがお妃だったとは……!」

「美琳さん……!」

「市場が黒いツルみたいなのに襲われて大変なんです……。あっ、皇帝陛下!」


 龍環に気がついた美琳は、思わず気まずそうに咳ばらいする。しかしその直後、お腹を押さえてうずくまった。


「美琳!」

「桃婆さん……無茶したから痛みが走った……」

「まだ十月まで大分日がある。ここで生まれたら大変じゃ」


 桃婆は美琳に駆け寄ると、右手をお腹の上に当てた。


「よ――しよしよし、いい子で待っているんじゃよ。焦って外に出る必要はまだ無いからの」


 桃婆は美琳のお腹の子に話しかけながら、右手でお腹をさする。


「桃婆さん……痛みが取れてきたよ!」

「ほう、これで大丈夫じゃな」

「ありがとう、桃婆さん!」

「さて、これからどうすべきかを……考えないといけませんのぅ」


 桃婆は腕組みしながら目を閉じて考え込む。

 

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