第48話 俺は君に会いたいんだ
「そっ、それは……言えません……!」
青美人は3つの首を左右に振る。
(……力分か? 元は彼が連れてきたし……)
龍環は考えた事を青美人から距離を取りながら声に出すと青美人は明らかに動揺が進んだ。そんな彼女が繰り出す首をダンダン! と床に打ち付ける攻撃は凄まじく、床のあちこちに大穴が出来ている。
「は、はい……! 私、あの方には逆らえなくて!」
「そうか。では力分は何者だ?」
「ううっ……ああああっ!」
(会話が通じなくなりつつある上に攻撃がより激しくなっている。外に誘導させながら逃げないと……!)
龍環が建物の外へと飛び出した。つられて青美人も建物の外に移動する。
「矢を射かけるなら今のうちだ! 兵士達よ、火を放つ準備を!」
「陛下、仰せのままに!」
龍環の命令を受けた兵士達の一部は矢尻に火を付け、火矢を放つ準備を進める。龍環は青美人の首が入ってこれないような小道へと逃げ込んだ。
「陛下。小道をまっすぐ行けば宮廷の外へと出られます。さあ早く参りましょう!」
「ああ……!」
「陛下あああああ!」
半狂乱の青美人が繰り出す攻撃により、地震のような揺れが起こる。龍環はよろめきながらも宮廷の外へと向けて逃げる。
「総員矢を放て!」
ここで兵士長の指示により、青美人の身体に向けて火の付いた矢が大量に四方八方から射掛けられた。
「やったか?」
しかし矢は青美人の身体に当たると、火は消えて身体に突き刺さる事なく地面に力なく落ちていく。
彼女の鱗の強靭さが現れた瞬間だった。
「火が効かない?」
一部始終を見ていた龍環は目を見開いた。彼の身体には死の恐怖がすぐそこまで迫っている。
(やはり、桃玉の力が無いと無理か!)
「総員退避! 退避せよ!」
龍環は兵士達に退避を促した。青美人の周囲には既に多くの兵士の遺体やけが人が転がっている。
「これ以上はまずい! 退避するんだ!」
「しかし陛下を逃がす為には……!」
「くっ……」
なおも戦う意志を示す兵士達の説得は無理だと諦めた龍環は彼らに促される形で歩を進める。
そして必死に走り抜いた龍環は、宮廷の外へとつながる巨大な門をくぐり抜けた。
龍環と数人の兵士や宦官達が通った後、兵士達の手により門は閉じられた。
「参りましょう、陛下!」
「わかった……!」
(すまない桃玉。君の力が必要だ。そして俺は、君に会いたい。その気持ちに君の力なんて関係ない。ただ君に会いたいんだ!)
両手を力強く握りしめた龍環は市場に向けて走り出した。
夜明けの近い空は、嵐の予兆の如き不気味な雰囲気を纏っている。
◇ ◇ ◇
(龍環様……)
桃玉は2階の空き部屋を借りていた。簡易なものではあるが架子床があり、他の家具も後宮で使っていたものと変わらないくらいの豪華なものである。
しかし、桃玉は眠れない。龍環にもう二度と会えないという悲しみと寂しさ、そして彼への愛が胸の中でふくらんでいたからだ。
(もう一度だけでもいいから龍環様にお会いしたい……龍環様、どうして私を宮廷から追い出したんだろう……)
すると部屋の扉をこんこんと叩く音が聞こえてきた。
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