第5話 生贄

「そちらにいるのは、桃玉のおじとおばかな? 君達もついてくるように」


 村長がじろりと蛇のような視線を桃玉のおじとおばにむける。2人は抵抗する事なくはい。と返事した。


「ちょっと、火を消してからでも……構いませんか?」


 桃玉のおじが遠慮気味に村長らに声をかけると、村長と僧侶は大きく首を縦に振った。桃玉のおじがかまどの灯を消すと、見計らっていたかのように僧侶が付いてきてください。と告げた。


(なんなんだろう……)


 桃玉はいきなり現れた村の権力者達に得体のしれなさを感じ取っていた。


(私、もしかして何かしたのかな? いやでも、心当たりが無いし……)


 疑問を胃の底にしまった桃玉は黙って村長らの元へとついていくのだった。

 到着した先は村長の屋敷。役人が出入りする事もあるこの屋敷は広さも外観も美しく古風で立派な建造物だ。村長らに案内されて屋敷の中に入った桃玉は、そのまま広間へと通される。


「さ、座りなされ」

「はい……」


 木造の簡素な椅子に桃玉が座ると、その前方にある豪華な椅子に村長が座る。対面かつ見下ろされているかのような構図に桃玉はごくりと唾をのんだ。


「さて、話をしよう。最近あやかしがこの村に現れ、村民に害をなしているのは知っているな? 桃玉よ」

「はい、知っています……」

「それで、だ。こちらとしても対応策を考えねばなるまい。姿の見えぬあやかしにこのまま取って食われるのを待つよりかはな」

「ははあ……」

(何が言いたいのかよくわからない)


 桃玉が村長から目をそらし、木でできた床へと目線を落とす。


「それで、だ。我らはこちらにおわすお坊様にもお声がけし、対応策を考えたのだ」

「え?」

「このお坊様は占いを得意としていてな。それで占ってみたのだよ。あやかし対策をどうすべきか、とな」


 僧侶が椅子から立つと桃玉の目の前にぬっと現れた。


「占いの結果、あなたを生贄に捧げる事を決めました」

「……は?」


 桃玉は目をまん丸に開けて、信じられない。と言うような顔つきで僧侶を見た。

 生贄……それはこの華龍国においてヒトが天候やあやかしの害を鎮める為に用いられてきた儀式である。僧侶や巫女の占いにより選ばれたヒトや動物をあやかしがいると思わしき場所へと供物として捧げるのだ。

 

「わ、私が……選ばれたんですか?」


 桃玉の声は震えていた。生贄に選ばれた事はすなわち死を意味する。


(い、いやだ……死にたくない!)


 だが、村長や僧侶から向けられた期待の目線を受けた桃玉は、声を発する事が出来なかった。



 

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