第8話 桃玉が持つ力
「君にはあやかしを浄化し、祓う力がある」
龍環は人差し指を右目の前に立てながら、桃玉を射抜くような視線を見せる。
「あやかしを浄化させる力……? でも私はあやかしなんて視た事無いですし……そもそもあやかしが視えるかどうかも」
「桃玉。君はあやかしが視えなくても結構。だってあやかしが視える俺がいるからね」
「えっ……?」
(龍環様、あやかしが視えるの?)
目を丸くさせながら龍環を見る桃玉。龍環はほら。と言って自らの右肩付近に手をやる。
「ここにもいるんだ」
(全然見えない)
桃玉がどのような姿をしているのですか? と問うと龍環は小さな白い狐のような姿だ。と返す。
「きっとかわいらしいのでしょうね」
「ああ、とてもかわいいぞ。目もくりっとしていて穏やかな気性の持ち主だ。見ていて飽きないよ」
(私もあやかしが視えたらなあ……)
「で、だ。君にはあやかしを浄化させる力があるとさっき言っただろう?」
「はい、言いましたけど……」
「試しにその力を使ってみないか?」
「え?」
桃玉は龍環の言葉の意味が理解できずにいた。その間に龍環は椅子から立ち上がると背後にあった棚へと移動しその場にしゃがみ込むと茶色い壺を持って桃玉の前へ歩み寄る。
「この壺の中に、ちいさな悪しきあやかしが詰まっている」
壺の上には木でできた丸い蓋がなされてある。だが、その壺の中からは悪臭が漏れ出ていた。あやかしの視えない桃玉ですら、その悪臭は感知できるくらいのものである。
ちなみにこの悪臭はあやかしが身体から発しているものだ。でもって身体から悪臭を放つ小さなあやかしが複数壺の中に押し込まれているのである。
「わ、くさいな……!」
「くさいがちょっと我慢してくれ。蓋を開けるぞ」
龍環が蓋を取る。すると悪臭は更に勢いを増した。
「わっ!」
桃玉は思わず鼻を右手でつまんだ。龍環も美しい顔をしわくちゃにしかめる。
「桃玉。君の右手を壺の中に突っ込むんだ。そして目を閉じて力を放て!」
「えっ?! や、私あやかしを浄化した事なんてないですよ!」
「右手を思いっきり広げて力をこめるんだ。ほら、はやく!」
「わっわかりました!」
桃玉は龍環に言われた通りに右手を勢いよく壺の中に突っ込むと、右手のひらをぐっと広げて力をこめる。
すると、悪臭はだんだん消えていった。
「そうだ、その調子その調子」
「浄化、されていってますか?」
「ああ、白い光に包まれて浄化されていっている」
(少しだけ、ツボの中に白いもやっぽいのが見えたような……気のせいかもしれないけど)
己にあやかしを浄化し、祓う能力がある事に気が付き、コツを覚えた桃玉はごくりと唾を飲み込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます