第20話

―ふふ。久しぶりだね



 頭に直接何かが響いて来る。どこか聞き覚えがあるようなそんな声が聞こえてくる気がする。だが、記憶には何もない。



―君は本当に僕のことを覚えないね。



 さっきから誰かの声が響いてくる。本当に煩わしい。なんなんだこれは。



―こっちこそ、君がなんなのかな? せっかく噂してるから話かけてあげてるのに。



 何か前にもあったような? なかったような?



―もういいや。こっち来て来てー。



 すると目の前の風景がいつのまにか変わっていた。先程までは俺の部屋にいたはずなのに、今はただただ白い空間が続いている。本当に何にも染まってない白い空間はどこまでも続いていきそうだった。



「もう、せーっかく僕が話かけてあげてるのに何してるの、君は」


「誰だお前」


「はぁ……。ちょっとは覚えてよね。というかさっきまで僕のこと考えてたよね?」



 はて? こんなやついただろうか?

 妙に馴れ馴れしいこいつはどうやら俺の知り合い(自称)らしい。しかし、俺の記憶にはこんな幼女はいなかったはずだが。その幼女は、まるでそこに階段があるかのように上に上がっていったり、下におりたりしてはいつの間にか視界から消えたり現れたりしている。何が楽しいんだろうか。



「あー、見た目変わってたね。そういや。これでどう?」



 すると、幼女は俺の目の前に急にひょこっと顔を出した。

 すると、姿が変わっていた。


 んー? ん? んん?

 なんか、胃あたりまでは出かかってるんだけど、思い出せない。誰だっけ?



「あれ? これじゃなかったっけ? こっち?」



 あー、お前か。お前ね。なるほど。納得した。



「わかってくれたのはいいけど、お前呼ばわりは気に入らないなー」


「てか、俺にとって良いタイミングで話かけて来たな」


「そりゃあ、君は僕の観察対象だからね。いっつも見てるよー」


「きも」



 は? 見られてたって事? 今までずっと? 悪趣味すぎるだろ。本当気持ち悪い。ストーカーと変わらないじゃん。



「ふふ。いいねいいね。やっぱ君はいいね」


「で、要件は言わなくてもわかるだろ?」


「えー、早速本題? 風流がないねー。焦りは禁物だよ。急かさない急かさない。せっかくの再会なんだから世間話にでも華を咲かせようじゃないか」


「何でお前なんかと……」


「えー、いいのかなー。君のお嫁さんの事聞きたくないのかなー」


「わかったよ。やればいいんだよやれば」


「いいね。話がわかってるー」



 何でこんなのと話さならんのか意味わからんがソラのためだ、仕方ない。こんなのと話すことなんてあるんだろうか。



「じゃあ早速、君この世界は楽しい?」


「まぁ、それなりに」


「君のお嫁さんもいるしねー」


「あー、そうだよ」


「本当に好きなんだね。ふーん」


「そりゃあ大好きだし」


「わお。言うね君」


「で、次は?」


「そだね。実は言うと特に無いんだけどねー。ま、僕は楽しいからこのまま続けてるけど」


「俺は楽しくないんだが」


「じゃあねー。君はダラダラしたいとか言ってたけど、出来てないじゃん。いいの?」


「俺も思ってる。でも、それなりに楽しいしソラもいるからもうちょい後でもいいのかとかも思い始めてる」


「それは僕的にはつまらない回答かな。君は面白くちゃいけないのに一般人以下に成り下がられちゃ困るよー」


「じゃあ全力で一般人以下に成れるようにしなくちゃな」


「君、本当僕のこと嫌いすぎーあははは」


「いつのまにか、存在そのものが嫌いになってた」


「何それー。しっかし、全否定されるとはねー。うん。いいよ。別に気にしてないしね。むしろ、そう言われる方が嬉しいうれしい」


「うわ……」


「じゃあ、最後の質問にしてあげよう。君は何を見ているのかな?」


「お前」


「おー、まさかのプロポーズとはねー。僕驚いちゃったよ。これで両思いじゃない? いいよいいよ。君の彼女に僕も立候補しちゃおうかなー」


「………」


「あら? どうしたの?」


「質問の意図がわからん」


「別に意味なんてないよ。ふふ」


「気味が悪いな」


「ふふ。どうだろうねー」



 そう言ってニヤニヤしてるだけで、本当に何を考えてるかわからない。こいつは何がしたいんだ。



「さ、本題入るんでしょ」


「あ、あー」


「君の奥さんに会いたいならもう一回あの神社に行くといいよー」


「は?」


「だいじょーぶ。会えまーす。僕に任せなさーい」


「信用できん」


「あとあと、狐の人達が言ってる事わかるようにしたから」


「は?」



 意外に至れり尽せりでどうにも俺ばかりに利点がありすぎる。上手い話すぎて、一周回らなくてもこいつは怪しい。

 相変わらず笑ってるだけで考えてる事はさっぱりわからん。何か思わくがあるんだろうか。



「大丈夫だよ。神社行ったら会えるから」


「信用できん」


「えー。じゃあ、仕方ないかー。じゃあ、対価ちょうだい。それで納得できるよねー」


「対価?」


「そ。わかる? 対価だよ」


「金とか?」


「んー? 僕に必要だと思う?」


「いや」


「何だと思う? 何だと思う?」



 嬉しそうにニヤニヤしている。本当に楽しそうだ。



「わからん」


「ここー」



 そう言って、こいつは俺の目を指で突き刺した。

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