第18話
「お母さん、ソラが! ソラが!」
「? ソラちゃんがどうにかしたの?」
「ソラが家のどこにもいない!」
「そういえば、今日は見てないわね。きっとお散歩にでも行ってるのよ」
「俺、迎えにいく」
「ダメよ。冬人は男の子なんだから外は危険よ」
「でも……」
「大丈夫よ。きっと戻ってくるわ」
「……うん」
そう言って、母さんは俺の頭を撫でた。
正直、こんな事初めてでまだ動揺がおさまらない。この家にソラが来てからずっとソラとは一緒にいたから、朝だって必ず俺の部屋にいた。
ソラだから、気ままにお散歩もあり得なくはないが、俺が起きるまで家に居ると思う。というか、今まで一度たりともいなかった事はなかった。
「冬人、ほら笑顔。大丈夫だから」
「うん」
「今日は、保育園行く日でしょう?」
「うん」
「お友達の子といっぱい遊ぶんでしょ?」
「うん」
「冬人が元気ないとみんな心配しちゃうから、笑顔よ」
「うん」
◇◇◇
「冬人くん、元気ないの」
「冬人くん……あのね。大丈夫?」
「うん」
そう応えると、2人は少し困ったような表情をしていた。
あれから、保育園に行くまでソラは帰ってくる事はなかった。母さんは大丈夫と言っていたが、どうにも引っかかる。それを気にしないようにしようとしても、この2人にはわかるらしい。
……!
すると、葵ちゃんが、両手で俺の顔を抑えてきた。
「やっぱり、冬人くん変なの……葵の女の勘が告げてるの。女性関係の悪化とか言うやつなの」
「む、難しい言葉知ってるね。葵ちゃん」
「ドラマ見てたら言ってたの」
保育園児が何ってドラマ見てんだよ!
教育上あきませんて。
「私もね。あのね……。葵ちゃんと同じで変だと思う」
「そうなの。変な冬人くんは顔がこんななの」
そう言って、葵ちゃんが変顔をしている。
しかし、そんな変だ変だ、近頃なんか変だ……じゃなくて、変って言わないで欲しい。
「凛ちゃん、葵ちゃんありがとう。何かしよっか」
「葵は葵は! おままごと!」
「私はおりがみ!」
「じゃあ、2つともやっちゃおう」
「「うん」」
◇◇◇
「お母さん、ソラは?」
「それが、まだ家に帰ってないみたいなの。どうしたんだろうね」
「……そう」
「ソラちゃんと出会った神社行ってみる?」
「うん」
「一応、お母さんに連絡しとくわ」
母さんが独り言のようにおばあちゃんに伝えてくれるらしい。何者かわからないおばあちゃんがソラ探しに加わってくれるならこれほど心強い事はない。
しばらく車に乗って、神社までやって来ていた。するとどこから現れたのか黒服の人達がゾロゾロと俺と母さんの周りを取り囲んでた。なんか、V.I.P.になったみたいで興奮する。
「ばぁ!」
「わっ!」
「ちょっと、お母さん!」
いました。おばあちゃんが。茂みの中に。
「冬人、昨日ぶりね。パーティー楽しかったかい?」
「うん。でも、疲れた」
「そうかい。そうかい。それはよかった。次は疲れないようにおばあちゃん頑張るわね」
おばあちゃんが、サムズアップしている。どう返すべきなのか迷い中。あんなパーティーは今回だけにして欲しい。
「で、冬人。ソラちゃんがいないってのは本当かい?」
「うん。朝からずっと見てない」
「明日になれば帰ってくる可能性もあるかもしれないが、万が一もあるかもしれないね。おばあちゃんもソラちゃん探しお手伝いしていいかい?」
「うん!」
「これくらいおばあちゃんにはなんて事ないない」
さて、本題に戻ろう。
ソラは何処にいるのかだ。朝は動揺していたため考えが至らなかったが、よく考えればちょっと出掛けているだけかもしれない。ソラにだって意思があるわけだし、気が向いてフラッとどこかに行く可能性もある。
だがまぁ、最悪戻って来ない可能性もある。それだけは絶対に嫌だ。とりあえず今はこれは考えないでいたい。
戻って来ない理由は、実は、心あたりというか察しは何となくついてる。まぁ、ソラは狐でおれは人間だしな。
他にあるとしたら、狐だとバレて駆除とかされたとかもあるかもだけど……まぁ、これはない。たぶんだけど、これならおばあちゃんが知ってそうってのがありから。でも、普通に、殺されたりとか轢かれたりとかはあり得るから怖い……。
とりあえず、ソラは絶対生きているって事は旦那として絶対的な感覚でわかるから、そこまで焦ってない。まぁ、ソラ成分の供給が無くて、禁断症状がやばくなり始めてるけど。
「冬人ちょーっと待っててね?」
そう言って、おばあちゃんは黒服の人を神社に向かわせた。はて、何してるんだ?
「おばあちゃん何してるの?」
「ふふ。そうだね。お片付けだよ」
「ちょっとお母さん!」
あー、あかん。わかってもうた。
なるほどね。
とりあえず、神社には女性はいないとだけ言っておく。いや、いなくなったか? 大丈夫、ソラも排除対象になってない?
しばらくして、黒服の人が帰ってきておばあちゃんに何やら伝えている。
「よし、行くよ」
「おー!」
「ソラちゃん待ってね」
ソラ探し大作戦はこうして幕を開けた。
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