第15話
「ふわぁー。眠いのう」
「だね」
「さすがに、旦那もお眠じゃな」
「うん」
「返信が単調で張り合いがないがまぁ仕方ないか」
ソラが何か言ってるかよく聞こえない。ダメだ。眠い。今は、20時だ……
◇◇◇
「おーい。旦那……って寝てしもうたのか。こんなところで寝てしまうとは風邪をひいてしまうぞ」
「あら、冬人寝ちゃった?」
「どうやらそうみたいじゃぞ」
と、2人は冬人を微笑ましそうにみている。ちなみに夏美は冬人達がお風呂を入る前にお風呂に入っており、すでに熟睡中。
「ソラちゃん、冬人の事お願いね」
「もちろんじゃ」
そう言って、冬人を抱っこしてソラは冬人の部屋まで連れて行く。
足元に気を配りつつ時たま、冬人の顔をチラリとみては、足元をみてを繰り返していた。
「こうみるとまだまだ子供じゃな。ふふ。かわいいのう」
ソラは冬人をベッドに寝かしつけ、布団をかけてあげた。そして、ベッドの横に屈みながら冬人をみていた。そして、利き手の人差し指を近づけ、ほっぺをツンツンと。
「おほぉ。柔らかいのう……起きておらぬよな?」
そう入念に冬人を確認して
「……冬人。冬人。冬人冬人冬人冬人。ふ ゆ と」
と、旦那の名前を連呼した。言った本人も恥ずかしそうではあるが、それよりも名前を呼んでいるという達成感や幸福感でいっぱいのようである。普段気恥ずかしくて呼べない分、こういうときに思いっきり発散しているのだ。これでも、ソラにもプライドがあるので、冬人のように好き好きオーラを全開にするわけにもいかない。
◇◇◇
「おーい。旦那、起きよ。朝だぞ」
「ふわぁー。おはよ」
超ねむい。冬人くんは朝に弱いのです。今何時だ。7時って、ソラさん早いっすよ。もうちょい寝てれるっすよ。ということで。
「おやすみ」
「あほ!」
「いで。まだ寝れるのにー」
「早寝早起きじゃ。もう起きておいた方が良い。いったいどれだけ寝るつもりじゃ」
「へーい……って、ソラ機嫌いいね。どったの?」
「何のことじゃ?」
わずかながらに口角が上がっており、顔色も良い。雰囲気も柔らかいし、何より俺をみる目が好き好きオーラの残留があるというか。何かあったっぽいのはわかるんけど、何があったかまではわからない。こういうときに限って隠すのはうまかったりするんだよな。普段、ポンコツなのに。
「旦那、何か失礼な事考えておったよな」
「ナ、ナンノコトヤラ」
「隠すの下手か」
「ソラってポンコツだなぁって」
「お、おー。オブラートにつつまぬか。全くこやつは。極端すぎるじゃろ」
「もちろん、ポンコツかわいいって事だよ!!」
「擁護になっておらぬからな?」
「もちろんする気ないから」
「なお、タチが悪い!!」
とにかく、今はいいか。隠し事の1つや2つある程度は許容してこその夫婦ちゅうもんやし。ソラのことだからきっとかわいいやつなのはわかるけどね。いずれ、ソラのことだし、言ってくれるでしょ。
話は打って変わって、急に気になってしまった事が出来た。なら、ここは聞くしかない。
「そういやさ、ソラって何歳なの?」
「じゃから、そういうのは聞くでないと前にも言うたぞ?」
「いやいや、夫婦なんだし、知っとくべきじゃん」
「うーん。確かにそうかもしれん」
「じゃあ、教えて! ね!!」
嫁さんは押しに弱いのでそこをつくといいでしょう。さて何歳だろう。1000歳とか? 実は10代とか?
「わかった……じ、実はわしにもわからん」
「は?」
「じゃから、わからんのじゃ」
「何故に?」
こんなに勿体ぶっといてわからないとは何事か。これいかに。
いや、逆転の発想だ。ソラの歳がわからないからこそ想像を楽しめる。俺がソラに甘えるという事が、あらゆる可能性を含むという事でもある。何とこれは素晴らしきかな。
「わし、狐じゃろ? 狐には、人間のように時間感覚もないし、ましてや日にち、年代感覚などあるわけなかろう?」
「あー。なるほど」
「わしら、というか他の動物にとっても、『あー、明るくなった』『あー、暗くなった』しかないと思うぞ」
「で、歳がわからないと」
「じゃが、さすがに年老いたババアとか陰で思われておると思うと腹が立って仕方ないからのう。おおまかでも知っておきたいのう」
嫁さん、そんなこと思ってないよ。むしろ、ババアなら2度美味しいというか素晴らしい。泣いてスタンディングオベーション確定でしてよ!
「じゃあさ、初めて人間見た時の事覚えてる?」
「何故に?」
「服とかで、年代わかるかなーって」
「なるほどのう。うーん。どうじゃったかな。わしもその頃小さかったしのう」
「色とか柄とかじゃなくて、えーっとね。これこれ。こういう和服みたいなのとかかなぁとか」
とりあえず、タブレットで調べて、その当時流行っていた、あるいは主流だった服を見せてみる。もし、和服とかなら、わりかし歳食ってはいるね。
「いや、こういうのではないな。みんな、旦那が来ているような服じゃったぞ?」
「となると、100もいってないんじゃないかな。50ももしかしたらいってないかもだし。ワンチャン、10代から40代の可能性もある」
「どんどん若くなるのう。というか、わし、そんなに若かったのか!?」
「その反応は、予想外。おもろ」
「な!」
「だけど、残念」
「ざ、残念? そ、その心はなんじゃ?」
「秘密ー」
さすがに、ソラがババアの方が面白かったなんて言った暁には離婚待ったなしの可能性が大。そんな過ちはおかしませんぞ。
「じゃあ、逆にわしから聞かせてもらうぞ?」
「うん。なになに?」
「旦那は何歳は、4歳じゃったな。じゃあ、誕生日はいつじゃ?」
「もうすぐだよ」
「え?」
「ん?」
「やばいではないか」
「何が?」
「わし準備しておらぬ!!」
「あー。えーっと、どんまい」
というわけで俺と夏美の誕生日まであと少し。誰か友達でも呼ぼうかな。凛ちゃんとか葵ちゃんとか?
せっかくのバースデーなんだからド派手に行こう。
◇◇◇
保育園にきた。なら、必然的にあの2人がいるという事で誘ってみる。
「凛ちゃん、葵ちゃん、次の日曜日空いてる?」
「うん!」「冬人くんが、空けてっていうなら空けるの!」
「無理にじゃなくていいよ」
「あのね。何かあるの?」「葵も何があるのか知りたいの」
「俺の誕生日だから一緒に「「行く!!」」あ、はい」
やっぱり、即答だよねー。知ってた。しかし、誕生日に友達を呼ぶの何げにこの世界に来て初めてかも。ちょいと照れくさいでやんすが、祝われると思うと嬉しいでやんすね、アニキ。あぁ、まったくだ。
冬人くん劇場終演。
とにかく、呼びたいと思ってた2人は呼べたからいいか。他の子たちも来たいとか言うかな。
「凛ちゃん、葵ちゃん、お願いがあるんだけどね」
「冬人くん、どうしたの?」「もちろん聞くの!」
「俺が呼んだのはまだ凛ちゃんと葵ちゃんだけだからね、他の子に話したら羨ましがられると思うんだ。だから3人だけの秘密にしてくれたら嬉しいなぁ」
「「もちろん」」
3人だけというのが、効いたのかかなり食い気味に応えてくれた。断られる心配は、してなかったと言えば嘘になるけど、やっぱりよかったよかった。冬人くんは、ひと仕事終えたので安心安心。どっこらせー。
(凛ちゃん、凛ちゃん)
(葵ちゃんどうしたの?)
(冬人くんのお家にはあの女の人がいるの!)
(! そ、そうだね! あのね。私、気をつける)
(それはもちろんなの。その人がもしかしたら、冬人くんが好きな人かもしれないの! だから、冬人くんの好みをいっぱい知れるの!)
(そうだね! その人にいっぱい教えてもらおうね!)
(うん)
何やら、2人がコソコソと。普段ならたぶん聞こえてると思うけど、今日は何ぶん周りがうるさい。いい事だよ!! うん。子供は風の子、元気な子。元気があれば何でもできる。
とにかく、そんなわけで、何言ってるのかはわからない。冬人くん抜きで何か話をされると冬人くんのヒビ入りガラスな心は今にもパキリパキリと。いやしかし、幼女同士の内緒事なのだ。きっと大事な事なのだろう。ここは、男冬人。その尊き心に免じて、見逃してしんぜよう。
「ねえねえ、凛ちゃん、葵ちゃん、何かしよー」
「「する!」」
「何したい?」
「お絵か「却下」」「葵はつみきしたいの」
「きゃっか?」「葵はつみきしたいの!」
「凛ちゃん、葵ちゃん、つみきしよっか」
「わーいなの!」「あのね。冬人くん、無視したらダメだよ」
「お絵かきはしたくないんだ」
「そうだったね。冬人くん絵が下手だったよね」
グサっ!
「冬人くん下手なの! 下手なの!」
グサグサっ!
やめて! 冬人くんの残りヒットポイントはゼロよ! 死なないで冬人くん! 次回、冬人死す。
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