第6話

(やぁやぁ、僕だよ)



誰?



(忘れた?)



 記憶にございません。

 ほんとうに誰なのか。誰なのか。俺の記憶が正しければ少なくとも僕っ子にこんな人いなかったですとも。ええ。しかも、姿すら見せないなんてどういうりょうけんっすか! ぷんぷん。



(君は、人を1人称で判断してるのかな?)



 実際どうなんでしょう。そうなんですか?



(いや、僕に聞かれてもわかんないって)



 ふむふむ。僕っ子のこの雰囲気。はてはて。むむ? もしかしていつぞやのカミサマでござるか?



(やっと思い出してくれたね。あの時の僕だよ。カミサマ呼ばわりとはちょーっと不服だけどねー)



 あー。どおりで、記憶にはなかったけど、懐かしい気配がプンプンと。おひさしゅうございますとも。



(はは、相変わらずだね)



 ええ。相変わらずですね。これが私のアイデンティティ。あ、ここイケボ。



(おーい。自分のワールドに引っ込まないでくれるかな?)



 失敬失敬。行き着く先は死刑。さらば、世界。また会おうグッバイ。そして帰還のマイワールド。



(……はぁ)



 ひょっとして呆れてます?



(君はもう少し落ち着きを持った方がいいと思うよ)



 無理っすね。俺のアイデンティティの崩壊じゃないですか。



(……もう、いいや。でさ、この世界楽しい?)



 それはもう。と言いたいところなんですが、何とも言えない感じですね。それが、聞いてくださる奥さん。この前、保育園に行ったときなんか。



(あー……。長くなる? 手短にお願い)



 わがままですねー。簡潔にいいますと、やはり人間関係が気薄なところと、外を自由に歩き回れないのは不満たらたら、たらのぬか漬けですよ。あと、何ですかこの身体。全然惰眠貪れないじゃないですか。



(こんな世界だからそこら辺はしょうがないよ。諦めな。それか、君が変えちゃえばいいんだよ。あと、文句は聞かないからね。出来るだけいい身体にしてあげたんだから。感謝はされども怨まれる筋合いはないよ)



 あー。さっきのギャグスルーしましたね。まるで滑ったみたいじゃないですか!



(いや、滑ったんだよ)



 うぅ。辛辣。あなたは鬼ですか!



(もうそういうのいいから、話聞きなって)



 聞いてますよ。身体は丈夫すぎるのが問題なんです。疲れたあとに惰眠を貪る、あの力がぬける感じがいいのにまるで疲れた気配がしない。



(いやいや、疲れはくるって。あれかな、社畜精神が、疲れを感じさせてないんじゃない?)



 あ、ありうる!?

 アリエール。じゃなくて、結局は自業自得って事ですか? そりゃ、ないですって。とほほ。

 で、もう一つが、俺が世界変えろって事ですか?



(そそ)



 うーん。どうなんでしょう。男だから多少は発言力あるかもしれませんが。どうなんでしょうね。



(そこは君が頑張るしかないよ)



 根性論っすか。



(頑張りなよ)



 あ、もう終わりな感じ?



(だねー。君のお母さんが起こしに来てるよ)



 さすが、母上でございますね。

 では、今回はこの辺で。



(いやいや、もう話す気ないからね)



 えー。そんな殺生な。



(ほら文句を言わない。僕はお助けキャラじゃないよ)



 えー。ほぼ、一緒じゃないですか。



(君、ほんと酷いからね? もう少し、発言気をつけなよ)



 大丈夫ですって。

 まぁ、ほどほどに。



(うん。じゃね)



 ええ。さいなら。



◇◇◇


「冬人、朝だよー」


「お母さんおはよう」


「おはよう」



 今日も一日が始まった。


 眠いあまりにも眠い。

 あれか、夢見てる時はしっかり寝れてないっていうあれか。カミサマ何やってんすか。次会った時はしっかり落としまえつけてもらいやすよ。指だしなー。ケジメ付けようじゃありませんか。

 ま、返り討ちにあうだろうけどさ。

 俺は口から出たあくびを噛み締めながら、階段を降りてリビングに入るとそこにはソファーに座って俺の妹こと、夏美たんがいた。



「にいに!」



 妹が、てくてく歩いてるんですけどー。

 ぎゅっしていい?

 よしぎゅー。あー、がわいい!

 かわいいの化身かな?



「夏美、おはよう」


「だぁー!」



 うっ!

 やめてくれー、お兄ちゃんを萌え殺す気か! 嫌だからね。ニュースで、『今日、7時すぎ自宅にて男児の遺体が発見されたとの事です。死因は急性心筋梗塞によるものと見られます。この方は日頃からシスコンを患っておりうんちゃらかんちゃら』とか流れたら。顔から火が出てほんとに死滅しちゃう。

 しかし、妹かわいいな。ちょうど抱擁できるくらいなのがいい。残念ながら俺はまだ小さいから抱っこは出来ないんだけどね。こういうとき、3歳差である事が非常にひじょーに! 遺憾であります。

 何で、10歳差とかで、産んでくれなかったんですか! 母上! と思ってしまうのも必然だ。あぁ、全く必然だ。

 


「冬人、朝ごはん食べちゃおっか」


「うん。顔洗って手も洗う!」


「いってらっしゃい」


「いってきます!」



 洗面所についたぜお。さぁ、顔を洗って手も洗ってしんぜよう。


 ふむ。やはりだんだんと母さんの雰囲気が出てきた気がするような、しないような? まだ、なんとも。

 今も結構かっこいいと自信を持っていますので、これからが楽しみですな。HAHAHAHA(アメーリカンな人風)


 さて、準備万端。終わりました之助け。

 今日の朝ごはんはなんじゃろなー♪



「冬人、はいどうぞ」


「パンケーキ!」


「ケーキ!」



 お兄たんの真似してるのかな? 夏美たん。

 最近、妹の学習能力が向上してきてうれしきかな。これくらいの子って、凄い喋れる言葉増えてくる気がする。たぶん。早く、大きくなれー。



「冬人も、夏美も、牛乳と一緒に食べてね」


「まんま! にゅうにゅうさん!」


「えらいねー。そう、牛乳さんと一緒に食べようねー」



 わかります。わかりますよ、母上。夏美たんがかわゆすなんですね。わかりますとも。

 母上は、笑顔でありながらも唇を噛んでおり、きっと悶えたいがそんな姿は見せまいと母親としてのプライドがそうさせているんだろう。



「お母さん、はちみつ食べたい!」


「ちょっと待ってねー。あー、どこだったかしら。んー。あ、あった。はいどうぞ」


「ありがとう!」


「かけ過ぎたらダメよ?」


「うん!」



 さすがにかけ過ぎたりなどいたしませぬ。ささ、食べますぞ。あ、夏美たんもう食べようとしてる。何歳からはちみついけたっけな? えーっとたしか、1歳過ぎたらよかったっけ?



「夏美、いただきますしよっか」


「「いただきます」」「だぁー!」



 母さんが、夏美のパンケーキを小ちゃくしてあげてる。あ、食べた。お口いっぱいになったね。

 ちなみに夏美のパンケーキにははちみつはかけてない。母さんは、たぶん夏美にあまり甘いものに慣れすぎて欲しくないんだろう。

 あ、牛乳飲んだ。お口の周り真っ白。あははは。

 んん!? 急な心臓部への負荷が!!


 じゃあ、俺も食べようかな。


 あ、はちみつの中にほんのり甘いパンケーキ。それを牛乳で胃に流し込む! あー! 最高!

 何って美味しいんだ。

 うみゃいうみゃい!


 おかわりってあるのかな?

 聞いてみよ。



「お母さん、おかわりある?」


「一枚丸々食べたの? 凄いわねー。あるわよ。でも大丈夫? お腹いっぱいで動けなくならない?」


「平気だもん!」


「わかったわ。はいどうぞ」


「ありがとう」


「どういたしまして」



 いくぞ! 無限パンケーキ編。果たして、俺はどれだけの高みに行けるのか……。楽しみじゃねえか!



 結論から言わしてもらおう。

 ゴクリ……。

 2枚でした。この身体の胃ちっさい!



◇◇◇


「お母さん達、もう行くけどほんとうに大丈夫?」


「うん。1人でお留守番する!」


「そう。チャイムが鳴っても絶対に出ちゃダメよ?」


「うん。わかった!」


「お昼には戻ってくるからね」


「うん」


「じゃあ行ってくるわね」


「いってらっしゃい!」


「いってきます」



 今は、家の中に1人。母さんは仕事に夏美は保育園。母さんの仕事は午前中で終わらせてくるらしいので、俺は1人でお留守番となった。

 さてと………俺は自由だぁぁぁぁぁぁ!!!!

 ヴォオオオオオ! (俺の中ではかなり野太い声のイメージ)

 ま、実際は4歳児の声帯な訳だしたかが知れてる。ちくしょう!

 俺のダンディー(ここイケボ)を返せ!

 ちくしょう! こんな女々しい声なんかいらへん! はようちに野太い声をプリーズするデース!


 ア○プス一万尺 こやぎの上で、アルプス踊りをさぁ始めましょ♪

 Hey

 らーららららららら、ファ○リーズ♪

 Hey

 今の俺ならコサックダンスもやれるはず(できるとは言ってない)


 さぁ、まずは状況を整理しよう。

 今家には俺は1人、俺はキメ顔でそう言った。イェーイ。ピースピース。

 

 さて、何するべか。そうべ、寝るべ。

 こんな時こそ、ダラダラしなくてどうする。いや、するべき。思い立ったが吉日。おやすみー。ふわぁー。ありゃ、急にねむ、く………。



◇◇◇


「冬人、おはよー」


「……ん?」


「もう、お昼よ。あ、こんにちはだったわね」


「お母さん何でいるの?」


「その反応はさすがに傷つくわね。お母さん、お昼に帰ってくるって言ったでしょう?」


「うん」


「あ、スマホ。はい、これで時間わかる?」


「えっと、12時6分?」


「あら、わかるのね。かしこいねー。よしよし。さて、もうお昼ご飯の時間よ」



 あ、母上、頭撫でるの気持ちいいであります。

 もっと撫でてくだされ。あー、気持ちいい。


 そうなのです、冬人くん大天才なのです。えっへん!

 もっと褒め称えてください。ええ。むしろ褒めるべきです。ささ、早く。


 ってもう12時か。え、マジで? マジで。

 じゃあ、4時間くらい寝てたのか。正直、超気持ちよかった。

 あれ待って? この世界に来て初めて惰眠を貪れたのでは!? やるじゃん俺。とりあえず、シークレットミッションコンプリート! ドンドンパフパフ。

 あー、眠気も無くなってる。やっぱじっくり眠るのは良きかな。たまには、こおいう日も欲しいな。

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