第7話
「じゃあ、行こっか」
「うん」
「にぃに!」
「夏美も一緒だよ」
「だぁ!」
嬉しそう嬉しそう。
そうです。今日は保育園の日ですとも。ええ。
そして、言ってなかったけど、夏美たんもお外に慣れるためにたまーに。ほんとうにたまーに、保育園に行ってます。
俺がスイカ組で、夏美たんはパパイヤ組。
ざっと下から、さくらんぼ組(0〜1歳)、パパイヤ組(1〜2歳)、ぶどう組(2〜3歳)、みかん組(3〜4歳)、スイカ組(4〜5歳)、梨組(5〜6歳)という感じかなぁ。
実は実は夏美たんと俺は誕生日が同じなので、ピッタリ3歳差なのであるぞ。えっへん。
誕生日の時なんかお兄さんと一緒にろうそくの火を『ふぅー』するもんね? 夏美たん。ま、妄想なんだけど。だって、前回の誕生日の時はまだ夏美たんがケーキ食べれなくて『ふぅー』一緒に出来なかったんですもの。悲しいですわね。全く。しくしく。
先程から、夏美たんは、母上の腕の中におさまりながらお兄たんを見てらっしゃる。それはまじまじと。あ、あのね? な、夏美さんや、そんなに見られますと、照れてしまうであろう?
「夏美は、お兄ちゃんが気になるのかなぁ?」
「にぃに! お手手!」
「夏美も、お兄ちゃんと手が繋ぎたいんだって」
「うん。夏美、手を繋ごっか」
コクリと頷いてくれる。
どうやら、母さんと手を繋いでたのが羨ましかったらしい。かわいいやつめこのこ……ぐふっ!
な、なんだ、急に心臓部への強い負荷が!?
ま、まさかこの俺が可愛いさに押しつぶされようとしているだと!?
うわぁぁぁぁぁぁぁ!!
や、やめて、くれ! これじゃ、『ヤ○チャしやがって』になってしまう。ほんとにまずい。
「冬人どうしたの?」
「えっとね、みんな仲良しだと思ったの」
「そうね。みんな仲良しさんだね」
「だぁ!」
この家族、最高すぎやしません?
「じゃあ、夏美、お母さんとも手を繋ごっか」
夏美はコクリと頷いて、お母さんの腕から降りて手を繋いでいる。かわいすぎてやばいんだが!?
左から、俺、夏美たん、母上と手を繋いで歩いている。もちろん夏美たんの歩幅はまだまだ小さいのでそのペースに合わせてみんなで仲良く歩いております。
いやー、楽しい。
あ、保育園が見えてきた。
「まんま!」
「保育園!」
「そうね。あともうちょっとよ。2人とも頑張って」
どうやら夏美も気づいたみたい。早く、保育園に行きたいっぽいんだろうけど、まだまだ歩くのが安定してない夏美は、走る事もまだちょっと難しい。だから、1歩1歩確実に保育園へと進んでいる。
「あ、そうだ。冬人」
「どうしたのお母さん?」
「冬人は、夏美の事好き?」
「うん!」
「……そうよね。でも、今はどちらかというと(ボソ)」
母上が、何やら言っている。小声すぎて聞こえない。決して、決して! 難聴系主人公を気取ってるわけではないので、ご安心を。あんな野郎になってたまるか!
さてさて、さっきの質問からして。ふむふむ。あー、なんかわかったかも。でも、こりゃあ、知らない振りをするべきだわ。知らぬが仏? なんか、こんなことわざあった気がする。
よし、忘れよ。
オレハオレダカラココハセカイ。よし。完璧。
「にいに! すき!」
我が生涯にいっぺんの悔いなし。
い、いけませんぞ、夏美殿。その言葉は、容易く口にされては。でなくては、死人が容易く量産されてしまうでそうろう。
夏美たん自身はまだ、好意と家族愛の区別が全然付いてないからそこら辺はまだ安心できる。ただまぁ、口に出した事全て本心だからちと心臓に悪いのはあるけど。そのままお兄たんは夏美たんに純粋に育って欲しいぜお。
さてさて、こんな事を考えていたら保育園に着いてしまった。
「先生おはよー」
「冬人くんおはようございます」
「せんせ! おはよ!」
「夏美ちゃんもおはようございます」
我の妹が、キャッキャ言ってる。こういうところ、女の子ぽいというか、ふとみせるかわいさが、大変趣き深い。
いとあわれなり。
意味?
意味なんか、ウィ○ペディアで、調べんかい。うんにゃうんにゃ。なんや、わいは、ウィ○ペディアかいな。
えっとね、『とても感動的であるさまを表す語』だった気がする。トニカクカワイイと思って感極まった時につかいましょう。
「先生、今日もよろしくお願いします」
「はい。お仕事頑張ってください」
「それでは」
「まんま! バァバァ!」
「お母さん頑張ってね」
全力のキュン顔いただきました。俺はって? 俺がキュン顔したらキャラ崩壊もいいところなんで、唇噛んで耐えたに決まってんじゃないっすか。舐めないでもろて、ええですかいな。あ、唇めっちゃ痛い。血は出てないからよかったけど。
んん! 思い出しキュンが俺を襲って来やがる。なんてやつだ。
「2人とも、行こっか」
あら、先生? 指に爪の跡が……あ、察し。先生も、好きなんですね。ちっさい子。いや、この言い方だと、ロリコン認定合格者みたいじゃんか。
まぁ、うちの妹はかわいいからね。しょうがないよ。
「にいに! 行く!」
「…ん! あ、あー夏美、行こっか」
自然と手を繋いでくる。それが当然かのように。まぁ、当然なんですがね!! だって俺、夏美の"兄"ですから。ええ。ドヤ!
ところで、夏美さんや、あなたのクラスは反対側ではなくて?
あ、お兄ちゃんを送ってくれるの?
えらいねー。
その後、しっかりと妹にクラスまで送ってもらいましたとさ。
教室に着いたので、とりあえず扉をガラガラと開ける。この扉はこの身体でも開けれるように出来てるのは親切設計。心温まるかな。冬人、心の俳句。
すると、よくわかる。そう凛ちゃんが近づいてくる。あともう1人もいる。他の子も近づいてこないだけでこちらをギラリと見られてちょー怖いねん。
「あのねあのね、冬人くんおはよー」
「凛ちゃんおはよう」
「あー、凛ちゃんばっかりずるいの! 葵もなの!」
「えっと、葵ちゃんおはよう」
「やったーなの!」
『なのなの』うるさいのが、葵ちゃんです。そうです、葵ちゃんです。初日から目立ってたからねー。
一瞬、名前忘れてたけど、一人称が参考になりました。ありがとうございます。
さてさて、今日は、朝からの保育園だったり。2日目にして、フル保育園の可能性あり。母上がいつ迎えに来るか知らないけど。
「冬人くん、ここに座ってなの」
「あのねあのね。私の横空いてるよ」
ふむふむ。修羅場じゃのう(他人事)
いやはや、おそろしや。
キレーに、2人が2つ離れて座ってやがる。まじどうすんのよ。これ。え? あなたたち、4歳児だよね? あれ? いつから、女の闘いが始まってました?
あれれー、おっかしいぞー。こりゃあ、ピンチちゅうやつやろ、○藤。
"悲報"
冬人氏、女の闘いに巻き込まれる。
お前が始めた物語だろ? って?
いやいやいや、知りませんって。こんなの知りませんって。怖いですって。厳しいですって。
はぁ……。まじどうすんのさ。これ。
まぁ、いいや。座ろ。
俺は凛ちゃんの隣に座った。
「ふ、冬人くん!」
あ、なんか嬉しそう。かわいいねー。ほんの数秒前まで女の闘いをしてた子に見えないよ。ほんとに。
あら?
葵ちゃんが、横に座ってきた。あらあら。結構、グイグイ来るな、葵ちゃん。
「冬人くん、葵ともお話しするの!」
「えっとね、冬人くんは、私の!」
おっとー。冬人くんは、冬人くんのものです。決して、凛ちゃんのではありません。
さて、闘っておる。闘っておる。バチバチに闘っておる。これは火に油を注ぐのも一興か。いやしかし、その仕打ちが俺に帰ってくるのは火を見るよりファイヤーだな。うーん。ほんまどうしよう。
いっそのこと、『お、俺の為に争わないで!』とか悲劇のヒロインを装うのもありかもしれない。ただ、自分のキモさに胸焦がれるのは必然か。
さて、どうしましょ。
「ねえ、冬人くんはどう思うの?」
「えっとね。冬人くん!」
おっと? キラーパスだよ?
しかもさ、冬人くんは前述してたこと聞いてなかったよ? そんなオイラにどうしろゆうねん!
あー、詰んだ。どうにかしてクレメンス。
「何が?」
やばいミスったな。これじゃ鈍感系じゃんか。素直な子は功をなす気もするけど、この応えじゃなかったな。はぁ……どうしよう。
「何が、じゃないの! 話聞くの!」
「えっとね、お話し聞いて欲しい!」
「は、はい!」
お、おう。案外行けた。ただ、怖いなぁ。何というか、圧? こおなんとも言えない、見えないんだけど見えて来るというか。
ま、まさかこれが第6感!? まさかのこのタイミングで、才能開花させちゃうか。ごめんね、天才で(笑)
「聞いてるの!」
「は、はい!」
こ、こえー。はい。聞いてますとも。冬人氏、耳をしっかり傾けておりますとも。全身全霊聞いていますとも。ええ。
にしても、4歳児とは思えないくらい雰囲気というか圧というか。まじなんなん?
まさか、この世界の女の子みんなこんな感じ?
え、小説とか漫画とかでよくある性欲旺盛とかじゃなくて、女尊男卑みたいな? いやでも、男性へのサービスが充実してるわけだし、女尊男尊か。あ、結局平等で元の世界とは変わんないのか。
「冬人くん、聞いてないの!」
「す、すみません」
「謝ってないでちゃんと聞くの!」
「冬人くん、聞いてね?」
「は、はい!」
あれれ? 葵ちゃんは、まぁ態度に出てるから怒ってるぽいのはわかってはいるけど、凛ちゃんどした? その笑顔怖いよ? ね? やめようよ、その顔。すんごい怖いよ?
「冬人くんは、どっちとお話ししたいの?」
「あのね。私だよね?」
「凛ちゃん」
すんません。凛ちゃんには逆らえません。はっきり言って怖いっす。まぁ、圧が無かろうとも凛ちゃんがいいけど。
「なんで、なんで葵はだめなの?」
あのですね。凛ちゃんや、そのドヤ顔まじやめてくれ。葵ちゃんの泣きそうな顔も相まって罪悪感とかほんとやばいから。
「えっとね。冬人くんは、私のだからだよ」
あのですね。凛ちゃんや、嘘はやめてくだされ。ほんと、手に負えなくなりやす。
あと、冬人くんは冬人くんのです。異論は認めません。
「あー……えっと、俺は葵ちゃんともお話ししたいよ?」
「……っ! そうなの! そうなの! やったーなの!!」
あー、なんか、女を誑かすクズみたいなセリフ吐いてり気がする。なんかやだなぁ。
今は葵ちゃんが、笑顔に戻ったからいっか。
さて、問題は凛ちゃん。ほっぺを膨らましております。やっぱ4歳児はこおじゃないとな。歳相応の反応をしてくれて嬉しいよ。さて凛ちゃんの機嫌取らないと。いや、この場合は、喧嘩両成敗。エクスカリバー!
「いーや! 冬人くんは私の!」
「違うの! 冬人くんは、みんなのなの! 凛ちゃんばっかりずるいの!」
「あははは……」
もうやだなぁ。振り出しに戻ったよ。
しかし、この世界だからこそ、いや、この世界でしか通用しない奇跡の一手を俺は持っている。この伝説の一手は今使わずして、何になろうか。
「喧嘩してる、凛ちゃんも葵ちゃんも嫌いだよ」
「「っ!」」
「だからね、仲直りして欲しいな」
「わかったの」「あのね、冬人くんの言う通りにする」
「じゃあ、仲直りの握手」
「凛ちゃんごめんなの」「葵ちゃん、えっとね、ごめんなさい」
とりあえず仲直りしてくれて良かった。小さい子はやっぱり素直でよろしい。まぁ、これがこれから何回繰り返されることやら。トホホホ。
しかし、この構文作り出した人天才よな。ノー◯ル平和賞あげたい。俺にそんな権限ないけど。
さて、先生いいですよ。と目線で伝えておこう。
先程から、先生が話せずにうろうろしていた。先生が仲裁に入ろうかどうか迷っていたらしい。まぁ、叩き合ったりとかではなかったから、とりあえず見守るという判断をくだしたようだったけど。
ぶっちゃけ、助けて欲しかった。
しかし、凛ちゃんのあんな姿を知りとおなかった。ひぃ。あー、思い出しても怖い怖い。何と恐ろしい。
「えーっとね、みんな、今日はお絵描きしよっか!」
「「「おえかき!!」」」
「冬人くんにみんなの顔とお名前覚えてもらうためにお絵描きできるかな?」
「「「できるー!!」」」
元気があって大変よろしい。さて、俺も描きつつみんなの顔と名前覚えなくちゃな。
「先生、みんなの名前書いてある紙ください」
「あー、ちょっと待ってね。作ってくる」
先生は、席を外してしまった。おーっと、みんながこちらを見ております。ただねー、目がギラギラしておりますよ。全く。困ったものですね。あはははは……は、は。なんか、身の危機を感じるような、あ、気のせい? いや、ほんと……あ、はい。気のせいっす。
「冬人くんは何書いてるの?」
すまない、まだ名前を覚えていないんだ、だから仮にA子ちゃんと呼ばしてもらおう。
「えーっとね、俺のこと知って欲しいから、好きな食べ物書いてる」
「へー、何?」
「オムライス」
「「「私もオムライス好き!」」」
おわ! き、急に大勢で来られると困っちまうze☆(ここイケボ)
しかし、食いつきがいいな。まぁ、オムライス美味しいからね。仕方ないよね。そりゃあ、オムライスだもん。世界救っちゃうよ、オムライス。うん。
「そうなんだー」
「「「うん!」」」
これぞ、返答5種の神器。伝説の『さ・し・す・せ・そ』
『さぁ』
『しんしんと心を痛めております』
『すんません』
『先生ー、お願いします!』
『そうなんだー』
これさえ、覚えときゃあ、会話は成り立つはず。是非覚えてくれよな。
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