第10話
「結局、母さん達にどう説明しよう」
「おぬしの母上か?」
「ん」
「わしも挨拶くらいはしたいが「全力でお嫁さんである事をアピールするね!」やめい。わし、狐じゃし、そこら辺は大丈夫じゃろうか?」
「母さん、俺ファーストなところあるから、『俺が好きになった人なら』とか言って普通に大丈夫だと思う。むしろ、狐をアピールするべきだよ。いいや、しなさい」
「何故、命令されねばならん」
「良いではないか良いではないか」
「はぁ……。どうしようかのう」
あ、好き。考えこんでる姿好き。もっとお顔を見してけろ。そのご尊顔を! あ、目があっ…いで。小突かれました。
「どうせいつかバレるんだし、今のうちに正体明かしとくべきだって」
「そういうもんかのう?」
「うーん。どうなんだろう」
「……」
頭を抑えている。苦虫を噛んだような顔をしている。いや、呆れてる顔だね、あれは。ソラは表情豊かで面白いね。あはははは。
「笑ってる場合か!」
「もうこの案で行くよ!」
「本当にいいんじゃな? それで」
「もちろん」
「旦那を信じるぞ」
「旦那呼びは嬉しいけど、冬人呼びはもっと嬉しいよ! さ、呼んで!」
「ふ、冬人!!」
「い、いいね! その赤らめた表「解説せんで良いわ!」」
◇◇◇
戻ってまいりましたとも、そして後ろにはソラが。ちょっとドキドキする。
「お母さん、おばあちゃん」
「何?」「どうかしたかい?」
「お嫁さん!」
「「?」」
「お嫁さん!」
「「??」」
ソラを前に出す。あら?
何か、口パクで伝えようとしている。何々、『せ・つ・め・い・へ・た・か!』さーせん。
あとはソラに任せて先に行く! 俺は夏美たんと遊んどくさかい。あとはまかしといたで!
「え、えっと」
「「!?」」
「あのー、良いか?」
お母さんとおばあちゃんは必死に頭をコクリコクリと縦に振った。ちょっと混乱してそう。それも仕方ないか。俺はまだ4歳。その子がいきなりお嫁さんを連れきた。おまけにここは男性が少ない。となると、大切に育ててきた息子が見ず知らずの女性の物になりかけているというわけだ。親、おばあちゃんとしては、いろんな感情が渦巻くのも無理ないだろう。だが面白い。
あ、ソラから非難の目が。
「冬人さんと婚約を結んで「お嫁さんです!」冬人もっと言い方あるじゃろ!」
「お嫁さん!」
「「!?」」
「お嫁さん!」
「ちょ、ちょっと何言ってるかわからないわ。ね、お母さん」
「……」
お婆様が絶句しておられる。なかなか見たことない光景が広がっている。母上はまだ現実が受け止めれてないらしい。あれ? おっかしいな。もう少し上手く行くはずだったんだけど。
「ソラと結婚したい!」
「「「っ!!」」」
いやいや、ソラさんや。何故貴方も驚いてるんすか。あ、直球過ぎたすか。いいじゃないっすか、直球。ド真ん中。押してダメならゴリ押していけ。
「ふ、冬人。ちょっとお母さん達に時間をちょうだい」
「うん」
母さんとおばあちゃんは作戦会議を始める。何やら、ゴニョゴニョ言ってて聞き取りはしづらいが部分部分でちょっと聞こえてくる。ほんと大変そう(他人事)
ソラさんやおいで。
手招きするとこちらに来た。
夏美たんとソラに囲まれて幸せ。
ここは天国か。部分的に地獄と化してるけど。
ホントダレノセイナンダロウネー。冬人くん4歳だからわかんない。いで。ソラさんに怒られました。
「(ち、ちょっとお母さんどういう事!?)」
「(私にもさっぱり)」
「(どうしましょう。どうしましょう。どうすべき?)」
「(知ってるか。知ってたら、私も、動揺してないわよ!)」
「(それもそうね)」
「(こういう時はネットに頼りましょう)」
「(そうね。そうしましょう)」
◇◇◇
結論から言わしてもらおう、ソラとは同棲できる事になった。あまりにも話が出来すぎているとは思わないでくれ、現実は時に厳しく、時に甘い。そういう物なのだ。
「ソラー」
「んー?」
「はいあーん」
「ん」
今は俺の部屋に2人でいる。母さんとおばあちゃんは下でもう少し心を落ちつかせる時間がどうたらと言っていた。
で、俺の嫁さんのソラは俺の部屋のソファーに寝転んでいる。完全に和んでいる。俺の嫁さんの適応力凄いなと驚きつつも俺もだらけている。
ソラに長い棒状の焼き菓子にチョコがかかった、いわゆる○ッキーを与えようとしている。決して、あの有名遊園地で薄情そうに笑うネズミさんではない。しかし、チョコは食べれるのだろうか。元は狐。狐は犬の仲間とも聞く。俺の記憶が正しければ犬にチョコは禁忌とされていたはず。
「そこんとこどうなのかね、ワ○ソン君?」
「いきなりどうした?」
「脈絡なく返事を求めても嫁さんはどこまで応えてくれるのかと思って」
「おぬしの求める嫁像はちとハードルが高くはなかろうか?」
「さぁ、どだろうね」
「さしあたって推測するにその菓子をわしが好きか嫌いかというのでどうじゃ?」
と嫁ちゃんはキメ顔でそう言った。
「おー。さす嫁。ニアリーイコールでほぼ正解。及第点だね」
「で、何を考えておった?」
「ソラかわいい! かわいすぎ! 最強!」
「当然じゃろ」
「あら、照れなくなったね」
「じゃって……わしもおぬしの事をかっこいいと思っておるぞ」
身体がこわばってしまった。咄嗟の事に驚きを隠せない。何をされた?
そう、反撃をくらったのである。あろう事かこの俺が。たかが、耳元で愛を囁かれたくらいで。
「どうした旦那よ。顔がちと赤いぞ?」
したり顔で言われた。そう、言われてしまったのである。俺は反射的に顔を逸らし口元を手で隠す事をするだけで精一杯だった。判断を見誤った。どこで間違えた。
だがたまらなく嬉しい。俺もソラが好きでソラも俺が好き。俺たちはそんな両想いという一見ありふれたそんなカップルへと成り果てたのだ。
「で、本当は何を考えておった」
「えー」
「もったいぶらずに言わんか」
「ソラってチョコイケるのかなぁと思って」
「大好物の部類じゃぞ?」
「マジで?」
「マジ」
「というか食べる機会ある?」
「神社からお賽銭箱を少々拝借してたまに町へと買い物しに行くぞ」
「何してんの!」
「はて?」
「……いや、そこら辺は価値観が違うのか。なら、大丈夫か」
「大丈夫じゃ」
ソラはドヤ顔をしている。無性に腹が立って仕方ないが、それを上回るくらいかわいいが来てしまう。なんだこの生き物。そうです。俺の嫁さんです。声を大にして言わせていただきます。俺の嫁さんです!!
「して、何故、チョコを食べる事に疑問を持ったんじゃ?」
「チョコって動物には身体に悪いっていうからさ」
「おほお、嫁の身体の心配をしてくれておったのか! ありがとうのう」
ぐはっ!
心臓部へのダイレクトダメージ。必中クリティカルで俺は死に絶える寸前だ。むやみに、笑顔は控えていただきたい。一体、何人の冬人くんを殺せば気が済むのやら。だが、安心してくれ。残機は無限にある。先に死んでソラを悲しませることは絶対にしないと言えよう。
「じゃが、心配はいらんぞ」
「どして?」
「今は人間色が強い姿をしておるだろ?」
「たしかに。たし"カニ"」
「……。で、この姿の時は基本的に人間の性質が強いんじゃよ」
「ほへー」
「理解してくれたか旦那よ」
「あたぼうよ」
「ならよい」
「ソラ他に好きなのある?」
「それ、それを待っておった!」
「お、おう」
嫁さんの食いつきがすごいです。かわいいです。おっと、本音がポロリと。
何が好きなんだろう。おあげ? やっぱおあげ?
「狐じゃからって、おあげが1番好きとか思われがちなんじゃがな、違うぞ! 全く持って違うからな! そこは覚えておくんじゃぞ!」
「肝に銘じます」
「よろしい。わしは、ブドウとかりんごとか人間が育てたフルーツだとかかなり大好きじゃ。他にも、お菓子も大好きじゃぞ」
マジっすか。フルーツ好きなんすね。かわいいっす。
うちの嫁さんかわいすぎではなかろうか? これはこの世の真理だから当然か。
フルーツまだあったかな。食べてるところ見たすぎる。母さんに聞いてみよ。
「ソラちょっと待ってね」
「き、急にどうした……ま、まさか!」
「期待はしないでね。あるかわからないし」
「わかったのじゃ!」
あちゃー。お目々、キラッキラしてますやん。尻尾めっちゃ揺れてますやん。がわいい!!
なんだこの可愛さ。
だがしかし、なかったらどうしよう。マジで。シュンとした嫁さんちょっと見てみたくもあるけど、とにかく喜んで欲しい。
とにかく今言える事はうちの嫁さんがとにかくかわいい。
俺はスタスタと階段を降りている。ソラのために旦那として頑張ります。
「お母さん、スイカの残りとか他にフルーツってある?」
「あら、あるわよ。スイカとぶどうはあるわねー」
「冬人、どうかしたかい?」
「ソラと一緒に食べたい」
「そうかいそうかい。ちょっと待っててね」
「お、お母さん!? 孫の為に何かしたいのはわかるけどやりすぎないでね!?」
「孫と孫の嫁さんに貢げるなら本望だよ」
おばあちゃんが暴走し始めましたー。あちゃー。冷蔵庫にあるスイカとりんごだけでよかったんだけどな。
何やら、電話している。冬人くんは鈍感じゃないからわかりますとも。お貢ぎされるのですね。最高級フルーツとやらを。ありがとうございます!!
冬人くんは欲望に忠実なので、ありがたく全部受け取りますとも。決して、横で『お母さーん』と止めようとしている母上が見えないわけではない。だが仕方ないのだ。俺もソラのためなのだ。仕方ないのだ。
◇◇◇
で、あれからしばらくして届いたわけだが……。
「なんじゃー!! このフルーツの量は!! 天国じゃ!!」
「あだぁ!!」
「……ぐはっ」
よ、嫁さんがかわいすぎt……
やばいよやばい。何これ。やばいよ。嫁さんのかわいさが天元突破してるって。軽く死人量産できるんだが?
それに夏美たんまでソラの真似して叫んでる。こっちはこっちでかわいいな。
ヨメサンマジカワイスギ。ナツミタンモマジカワ。
「冬人! 冬人! すごいぞ! これすごいぞ!!」
ソラの方が絶対凄い事になってます。おばあちゃんと母さんの前だから4歳児ぽく見える演技しないといけないんだけど、ソラがかわいすぎてそれどころじゃない。
おばあちゃんと母さんはソラを生暖かい目で見守っている。当の本人は気づいてないけど。どんだけ、フルーツに気を取られているのやら。
「あー!!!!!!」
「な、なんじゃ?」
「どうかしたかい?」
「冬人どうしかした?」
「う、ううん。何でもない」
俺は気づいてしまった。先に言わせてもらうよ。最高かよ。
そう。嫁さんは後で絶対悶えます。かわいい事この上なし。今、多少幼児退行している嫁さん。後になって冷静になってみたら、あら不思議。赤面まっしぐら。かわいすぎかよ。
しかし、おばあちゃんやり過ぎ。誰がトラック1個分持ってこいゆうた。さすがに来た時はドン引きしたし、おばあちゃんが、母さんに説教されてるのを遠目で見てしまった。あれは見たくなかった。唯一、ソラは意味が分からずフルーツ見ながら頭の上にハテナマーク沢山生やしてたね。あれはあれで場が和んだよ。
要するにカオスというわけ。恋のしもべというわけではないですとも。
「冬人! これわしが! わしが全部食べても良いのか!!」
「違う違う違う」
「違うのか?」
ここで、ソラに腹ペコキャラ追加しなくてもいいって。かわいいけどさ。
「みんなで食べましょう」
「そ、そうじゃな。失礼したぞ、義母上様」
「そうね。今、娘と食べる準備してくるわ。ソラさんは何が食べたい?」
「義祖母様こんなにも感謝致すのじゃ。そうじゃのう、ぶどうとスイカにりんごをわしは食べたい!」
「わかったわ。ソラちゃん、冬人と夏美と待っててね」
「あ、手伝うのじゃ」
「そう。助かるわ」
ソラはおばあちゃんと母さんと一緒に台所へと向かう。俺と夏美たんは足手まといなので大人しく待っています。そう、俺には夏美たんの面倒を見ないといけない仕事があるし、夏美たんには俺の面倒を見ないといけない仕事があるから仕方ない。
嫁さんが、自分の家族と仲良くしてるってのはむず痒くはあるものの嬉しくはある。今のところ関係は良好みたい。
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