第12話

「旦那よ」


「ん?」


「迎えに行く時、義母上様から聞いたんじゃがな」


「うん」


「旦那はあと4人嫁作らねばならぬそうではないか。どうするんじゃ?」


「嫉妬嫉妬?」


「違うわ!」



 嫁さんのヤキモチかと思ってちょっと……いや、かなり嬉しかったけど、違うらしい。ほんとかなー?

 しかし、嫁さんからこの話題出されるのは何とも息苦しさを感じる。ちなみに今は部屋で2人きりどす。



「で、どうなんじゃ?」


「ソラさえいればいらない!!」


「…っ!! じゃなくて、真面目に応えんか!!」


「大真面目だよ」


「お、おうそうか。じゃがな、そうはいかんじゃろ」


「いやだいやだいやだいやだいやだ!!」


「……。駄々をこねるな。まぁ、見た目相応か。あのじゃな、わしとしては、わしの事を一途に好いてくれるのは大変嬉しい。じゃがな、それとこれとは話が別なんじゃ。旦那もわかっておるだろ?」


「………わかってはいるけどさ。俺はどうしようもなくソラが大好きだし、ソラだけを愛してたい。そしたら、他にお嫁さんが出来ても、せっかく好きでいてくれてるその子達にちゃんと向き合ってあげれないんだ。それは失礼だし、絶対悲しませると思う。だから安易にソラ以外の子と結婚はしたくない」


「んーー。難しいのう。わしに向ける愛は分割できんの「無理」……そうか」



 ソラと話しててこんなに息苦しいのは初めてだ。いずれ向き合わねばならない問題ではある。それを否定し続けていても何も生まれないのはわかっているし、あまりにもソラに対する想いが重いのは自分でも自覚しているつもりだ。



「いずれ、旦那が嫌がろうが嫁は増やさねばならん。そこはわかってくれ」


「そんなの」


「いいか旦那。わしは狐じゃ。わしら狐や他の自然に暮らしている者にとって1人の旦那に複数の嫁がいることは何ら不思議でない。むしろ、当たり前の事じゃ。それはオスの強さの証であり、子孫繁栄であるからのう。じゃから、わしは旦那に嫁を複数作ってもらいたい。無論、旦那の意見は尊重する」


「だからそうですかとはいかないんだよ。この世界の常識的に考えたら俺の方がおかしいのはわかっているけどさ、それを素直に飲み込めるほど俺は人が出来てない」


「全く、困った旦那じゃのう」


「そういう男なんだよ。俺は」


「めんどくさいわい」


「俺もそう思うよ」


「まぁ、頭の片隅にでもおいて考えてくれればよい」


「もし、俺が結局ソラだけを選んだら?」


「その時は山にでもこもって2人で悠々自的に暮らすのも良いやもしれんな」


「……そっか」



 自分から不甲斐なさにこの時ばかり虫唾を感じずにいられなかった。結局は、ソラ頼りで何もかも………。


 先程から、妙な空気だ。だがしかし、気づいていないふりをしてはいたが、今のソラは積極的なのである。

 俺の身体に尻尾を擦り付けてくるというか、俺の背中にソラの背中を押しつけてくるというか。俺からしたら嬉しい事この上ないけど、どういう心境なんだろう。ソラちょっとツンデレみたいなところあるし、聞いても素直に応えてはくれないんだろうな。



「ソラさんやソラさんや」


「なんじゃ?」


「尻尾触っていい?」


「ふぇ!? だ、ダメじゃ」



 どうやら無意識にしていたらしい。尻尾に注意を向けさせてさりげなく気づかせる気遣いできる旦那心。我ながら天晴れ。

 しかしここで終わらないのが冬人くんクオリティー。



「で、どんな心境?」



 とまぁ、全てをダメにしてしまうのです。これさえなかったら完璧だったのにねー。



「っ!! な、何でもないのじゃ」


「ふーん。てっきり俺の身体から他の女性の匂いがしたからそれが嫌だったのかなぁと」


「っ!! ち、違うわい!! ふん」



 どうやら合ってたらしい。俺の嫁さんが大変わかりやすくて助かる。二重の意味で。

 しかし、先程の威厳ある姿はどこへ行ったのやら。これではまるで別人ではないか。まぁぶっちゃけどちらのソラも甲乙つけ難くはある。つまりどちらもいいね!



「ねぇねぇ」


「な、なんじゃ?」


「朝言ってた、何でもきいてくれるやつ今頼んでもいい?」


「べ、別に構わんが自重はしてくれよ、旦那よ」


「もち。じゃあさ、じゃあさ、一緒に晩御飯のデザート作ろうよ」


「ふむ。よかろう。じゃが、案外まともじゃな? もう少しヤバめかと思ってたのに」


「もう少しヤバめがよかったの? なら、そうするけど。仕方ないね。ソラの頼みなら」


「違うわ!」


「いで」



 怒られました。というわけで、デザート作りをしたいと思います。パフェ何てどうだろう。



「パフェ作ろっか?」


「ぱふぇとはなんじゃ?」


「知らないの?」


「うむ」


「コップにフルーツやらゼリーやら生クリームやらフレークやらアイスが入ったやつかな」


「???」


「生クリームとかアイスもしかしてわからなかったり?」


「面目ない」


「そうかそうか。ちょっと待ってね」



 うちにタブレットやら調べれる物がないか探す事にした。音声入力できる機能がある事が1番好ましくはあるが、ネットを使って調べれるだけでも御の字だ。

 嫁さんは、字を識別しっかりとは出来なさそうだから画像でちゃんと覚えて欲しい。


 あったあった。


 俺は、ソラにタブレットの画面を見せながら説明する。



「えっとね、これがアイスでこっちが生クリームで、これがパフェ」


「旦那よ……。これは凄いのう!!」



 嫁さんが嬉しそう。お目々をキラキラさせております。パート2。

 言ったはいいものの材料があるのかを確認していなかった。フルーツは山盛りにあるからいいとして他はどうだろうか。嫁を落胆させる事は出来れば避けたい。というか、嫁さんの口はもうパフェを食べる準備が出来ている様子。これは『出来ませんでした』じゃすまない気がする。

 仕方がない。ソラのためだ。もしもの時はお小遣いを切り崩そう。ソラの誕生日まではある程度取っておきたいが仕方ない。背に腹は変えられない。

 あ、どうやって買い物行こう。今は17時。まぁ、帰ってきたらちょうどいい時間になっているだろう。



「ねぇねぇ、ソラ」


「なんじゃ?」


「俺の見た目を少しでいいから成人女性に出来たりする?」


「まぁ一応」


「じゃあさ、お願いしてもいい?」


「何をするんじゃ?」


「パフェ作るから買い出しに行こ「わしもゆく」あ、さいですか」



 パフェの事しか頭にないな。こりゃあ。

 いや待て!? これはいわゆる『買い物デート』なのではなかろうか!?

 めっちゃワクワクしてきた。それにプラスで母さんに内緒で行こうとしている分のドキドキもあるから相乗効果で。どこか寄り道するのもいいかもしれない。



「念の為、冷蔵庫の中確認してくるね」


「うむ」



◇◇◇



「やっぱりなかったから買いに行こっか」


「うむ!」



 尻尾ゆらゆらしてるかわいい。あ、しまっちった。仕方ないけど、残念。



「じゃあお願いします」


「ほれ」


「ほへ?」


「なんじゃその間抜けな声は」


「案外、簡素だったから。もっと変身バンクがあるのかと」


「ないのう。まぁ、よいよい。買い物にゆくぞ!」


「あら、2人ともどこ行くの?」


「あれ? 母さんには俺が見えてるの?」


「あー、親しい者には効果が薄いんじゃよ」


「デート」


「「!?」」



 2人とも驚いてる。というか恥ずかしいな、これ。



「そ、そうね。それはお母さんは邪魔できないわ。おほほほほ」


「す、すまぬ。義母上様」


「た、楽しんできてねー。と、そうだわ。外は危ないわよ!」



 デートではやっぱり誤魔化せなかったらしい。しかしそんなに外は危ないのだろうか。いつも保育園に行く時歩いているが。



「義母上様、一応、わしの術で他人からは旦那が成人女性に見えるようにしておるから大丈夫じゃよ」


「そうなの。ならよかったわ。でも念の為、帽子していきなさい」


「ありがとう」



 なんとか母さんの許しが出て外へと行けるようになった。何やら、後ろで母さんが電話しているが気にしない気にしない。身の安全はソラがいるからと一応、承諾はしたがやはり母親としては心配なのだろう。だが、子供の意見を尊重したいくて苦肉の策でこれとなるほど。

 街中に黒服の人がいっぱいいるんだろうな……。

 せっかくのデートなのに……。

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