第13話

「ソラ、手」


「う、うむ」



 恐る恐る手を出してくるソラ。その手をぎゅっと握った。どこかひんやりとしていてちょっとほっそりとしていて、これがソラの手なのかとしみじみと感じた。今はいわゆる恋人繋ぎというものをしており、ぶっちゃけると俺自身もかなり照れてはいる。ソラもソラで照れているはずだ。

 2人でいる時は自然と会話できているのに、今は口数が少ない。気恥ずかしくてお互いどう接していいのかわからなくなっているのだと思う。



「ありがとう」


「急にどうかしたか?」


「いや。ただの独り言」


「そうか」


「そう」



 と会話は区切れてしまうがこの沈黙も悪くはない。むしろ好きな部類だと思う。



「のう」


「何?」


「ぱふぇとはどんな味なんじゃ?」


「想像通……って、アイスとか生クリーム知らないんだった。うーん。結構難しいな」


「どうなんじゃ?」


「うーん。わからん」


「わからんって」


「じゃあ、食べてからのお楽しみで」


「それは逃げじゃぞ、旦那よ」


「あ、ソラ」


「なんじゃ?」


「今は冬人って呼んで欲しい」



 照れたような困っているようななんとも言い難い表情をされた。だが、呼んで欲しいのだ。こればかりは譲れない。我が強いのが冬人くんの利点であり欠点、要はプラマイゼロで何でもない。

 どゆこと? ダメだ。これ以上考えるとバカになる。え? 元から頭おかしいって? HAHAHAHA! 君は何を言っているんだい!!(圧)



「ふ、冬人」


「よく言えました」


「ふん! べ、別にこれくらい朝飯前じゃ」


「その割には顔が赤いような」


「あーあー!! 聞こえないのじゃー」


「聞こえてないんじゃしょうがないなー、パフェは諦めてこのまま帰ろーか!」


「冬人卑怯じゃぞ!!」


「……っ」


「あー! 照れておる照れておる!! かわいいのう」


「う、うっさい。スーパー行くよ」


「あ、待つのじゃ」



◇◇◇



「あいすというのはどれを買うべきなんじゃ?」


「パフェを何メインで作るかによるかな。無難なのはバニラだけど、それじゃあ面白くない。何か合わせたいフルーツとかある?」


「うーん。やっぱ、いちごかブドウかのう」


「なら、いちご味とかブドウ味もあるね。変わり種だったら、レアチーズケーキ味か」


「れあちーずけーき味?」


「チーズのケーキの味」


「そのまんまじゃな」


「まんまだな。ま、時間はあるから決めてて。他の材料買ってくるから」


「うーん。どうしようかのう」



 話聞いてねー。どれだけ楽しみなんだ。

 さてさて、パフェには何あったっけな。スポンジ生地はなくてもいいか。ゼリーとかかな。あとはフレークだったり、生クリームはいるね。あと何か欲しいな。

 あ、ソースか。ソラが選んだのに割と合いそうなのはチョコ……うーん。違うか。

 ブルーベリーにいちごか。うーん。合うだろうけどなんか違う気がする。他は無いか。ならこの2つ買うか。予算足りるかな。1500円持って来たけど。



「ソラ、決めた?」


「あともうちょいじゃ。このいちごとれあちーずけーきとやらで頂上決戦を繰り広げておる」


「そ、そっかー」



 案外、ソラはユーモアのセンスあるかもしれないね。



「2つともで別にいいよ」


「よ、よいのか!!」



 そんなに期待に溢れた顔されたらNOとか言えないじゃん。俺は嫁さん全肯定人間です。さぁ、応えるのです。



「うんいいよ」


「やった!!」



 これじゃどっちが子供なのやら。ほんとかわいいな。もう。



◇◇◇


 お会計を済ませて店を出た。

 1500円あった手持ちが今は300円ほど。

 寄り道して帰りたかったけど、どうしようかな。

 ギリギリ、ソフトクリーム1つは買えるか。そもそも近くにあるのやら。



「ソラ、行きと別の道通らない?」


「別に良いが、道はわかるのか?」


「いやわかんないけど」


「なら、寄り道などせず帰ろうではないか。あいすが溶けてしまう」



 うー。ダメでした。未知の甘味『アイス』を前にした嫁さんには敵いません。せっかくのデートなのだから寄り道くらいしたっていいじゃん。アイスなんて、今は秋だし、さほど溶けないだろうし、溶けてもまた凍らせばいいじゃん。



「あいすー♪ あいすー♪」



 とほほ。大人しく帰りますよ…。あ、ちょ待てよ。だから、強めに手を引かないでクレメンス。あ、ちょいたいっす! 早い早い早い!! ちょ、まじ待って!!



◇◇◇



「あら、早かったわね」


「うむ。ぱふぇを旦那と作るからのう」


「お母さん、手洗ってくる」


「はーい」


「あ、待て。わしもゆく」



 パシャパシャ。ジャー。ゴシゴシと。まぁ、こんなもんでしょ。俺の手にはもはや雑菌など存在するがしないのだ!! わぁっははははは!! 残念だったな!!

 手を綺麗にした後は冷蔵物と冷凍物にわけて冷蔵庫へといざ投入。ささ、きんきんに冷えやがれ。



「冬人、どれくらいお金かかったの?」


「そんなに」


「お母さんに言ってくれればよかったのに」


「ううん。大丈夫」


「そう……」



 母上が、なんだか哀愁漂わせておる。は! まさか、そっけなく返しすぎた? これはしもうたー。俺としたことが、そこら辺の調整を間違えてしまうとは。調整ゆうなって? それには『ぐう』の音も出ないっす。まぁ、ちょうどお腹は『ぐうぐう』鳴ってるんだが。飯じゃ! 飯の用意じゃ! はよう取り掛かれ!!



「旦那、ぱふぇはいつ作るんじゃ!!」


「晩御飯食べてから作ろうかー」


「えー。嫌じゃ嫌じゃ!! 今食べたいー!!」



 いつからソラは駄々っ子お嫁さんにジョブチェンジしたのやら。可愛いね。とりあえずパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャ。

 は! き、気づいたらアルバムにソラの写真が100枚も!? 少なすぎない? もっと撮っておこ。

 パシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャ。

 ふぅ。完璧ー。この端末のアルバムには秘宝が隠されている!! さぁ、探すのだ血気盛んな若者どもよ!!

 ワ○ピースは置いてきた!!

 しかし、これはこれはまるで『宝石箱やー!!』といわざるをえない。至高極まりない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る