第5話

「冬人」



 教室の外から何やら、母さんが呼ぶ声がした。その声がした方をみると、やはり母さんがいる。どうやら、今日はここで終わりらしい。



「あ、冬人くんママさん」


「お母さん!」



 と抱きついてみる。なんか実家のような安心感。心がポカポカしてきた。やはり母さんは一味違うと思うね。ま、比較対象がいないともいうけど。だって仕方ないじゃん、母さん以外抱きつける環境じゃないし、誰にだって抱きつくほど、エロガキでも羞恥心を捨てたわけでもないんだし。そもそもの話、この世界で、男性が女性に抱きつくとやばいと思う。食べられるんとちゃう? 性的な意味で。



「それで、あの後大丈夫でしたか?」


「はい。冬人くん、もうみんなと仲良くなっちゃって」


「あら、それはよかったです」


「……ふわぁーー……?? 先生、えっとね、誰ー?」


「凛ちゃんこんにちは。冬人くんのママさんだよ」


「あらあら。こんにちは」


「……こんにちは!」



 そうだよね。起きて『こんにちは』はなんか変な気もするけどな。しかし、こんな時間に眠るのはなかなかに背徳感があるね。



「えらいわねー。冬人くんのママですよ。今日は、冬人と仲良くしてくれてありがとね」


「凛ちゃんありがとう!」


「ううん。私がね。あのね。えっとね、冬人くんと仲良くしたかったからね。あのね。お友達なんだよ!」


「あらあら。じゃあ、これからも仲良くしてくれる?」


「うん!」


「ありがとう。それじゃあ、冬人帰ろっか」


「うん。先生、凛ちゃんバイバイ」


「冬人くん、あのね。バイバイ!」



 先生は軽く会釈をしている。母上に手を引かれていない方の手で手を振りながら保育園をでた。

 それにしても、お昼過ぎに家に帰るんだ。不思議なような、特別感があってワクワクするような。この何とも言えない感じ。高校で、昼前に授業が終わる時みたいな感じがする。

 保育園楽しかったな。明日もかな?



「ねえねえ、お母さん、明日も保育園?」


「楽しかったのね。残念だけど、明日は保育園じゃないわ。冬人は、そうね。日曜日までにあと2回行くわ」


「わかった」



 なるほど。週3か。そりゃあ、ほいほい男の子を預けれないか。貴重な男の子だもんね。もし何かあれば気が気じゃないだろうし。それに、母さんも俺と夏美と過ごす時間はあまり減らしたくないのだろう。

 ま、家も好きだからいいけど。明日はゴロゴロしようかなー。何もしないこれに限る。初めての保育園で身体は大丈夫なんだけど、なんか精神的には疲れた気がする。


 ただいま。マイハウス。俺は戻ってきたぞ!



「冬人、手を洗ってきて」


「はーい」



 手洗い、うがいは基本です。菌はどこに潜んでいるかわかったもんじゃない。それに、母さんや夏美にうつしたりしたら大変だと。



「お母さん、洗った!」


「あ、夏美が寝てるから静かにね」



 コクリ。



 俺は空気を読める男の子なのである。激かわ妹の睡眠は俺が守る! 何者にも邪魔はさせん。夏美、じっくり寝てくんなされ。



「冬人、3時のおやつ食べよっか」


「うん」



 おっといけない、夏美が寝てるのに声を大にしそうでした。にしても、ほんとすやすや寝てる。ス○リス姫かな?

 いや、うちの姫だしあながち間違ってはない。むしろ、スヤ○ス姫である事を推奨したい!

 ほっぺぷにぷになんだけど。めっちゃ触りたい。何これ触りたいんだけど。触ったら起こしちゃうかな。ほっぺの魔力恐るべし。うぉ、手がほっぺに吸い寄せられる。やめろやめるんだ! 母さんに怒られてしまう。



「冬人、スイカでいい?」


「スイカ!」


「はーい」



 ビビった。母さん、さすがにこのタイミングは肝が冷えた。控えておくれ。

 うむ。やはり、妹かわいいね。うん。若干シスコン補正あるかもだけどかわいいね。母さんの血が流れてるわけだし、いずれ母さんみたいに美女へと変身を遂げちまうんだろう。いやはや、恐ろしい。

 反抗期が来て、『お兄ちゃんなんか大嫌い』とか言われみなよ。軽く死ねる。むしろ、それ想像しただけで精神的大ダメージをくらっちまう。というか、この世界の子って反抗期あるんだろうか? あるか。



「冬人、スイカよ。種気をつけてね」


「うん」



 いただきます! あんまぁ! 何これ。絶対高いやつでしょ。母さん、どうやって買ったの!?

 そういや、母さんってどんな仕事してるんだろ。基本、俺と一緒にいる時は仕事してないし。にしては、こんな高そうなスイカ買ってるし。謎だ。



「美味しい?」


「うん。すんごく甘い」


「でしょ。ふふ。まだたくさんあるからそんなに急いで食べなくてもいいわよ」


「いっぱい食べる」


「食べすぎたらダメよ」



 いや、さっきの流れ的におかわりたくさんオッケーのはずでしょ! 何故ダメなんだ!



「なんで?」


「晩御飯食べれなくなっちゃうでしょ?」



 ホンマや。ぐぬぬ。正論で反撃とは何も言い返せない。してやられました。完敗です。



「じゃあ、晩御飯食べる!」


「まだ、晩御飯まで時間あるから、いっぱい遊んでお腹空かせててね」


「うん」


「……まんま!」



 おっと、我が家のお姫様が目を覚ました。

 開口一言目が、『まんま』とはかわいいやつめ。母さんのことかな? ご飯の事かな? できれば『にいに』も言ってくれたら嬉しいなー。



「あら、起きたのね。ちょっと待ってねー」


「あだ! うー」


「はいはい」



 何やら、お姫様はご機嫌な様子。かわいい。寝起きでもかわいいとはずるいやつめ。

 そういえば、夏美スイカ食べれるよね? 食べさせたい。



「ねえねえ、お母さん」


「何?」


「夏美にスイカあげてもいい?」


「そうね。私達で独り占めするのもいけないし、夏美にもあげよっか」


「やったー」


「じゃあ、準備してくるから、お兄ちゃんは妹の面倒みてくれる?」


「うん」



 そのミッションしかと成し遂げてしんぜよう。

 待ってろよ夏美、今行く!



◇◇◇


「はい。あーん」


「まぁー!」



 んん! がわいい!!

 何って子なんだ。夏美ちゃんです。かわいすぎやしませんか。なんか、もぐもぐしてるんですけどー。待って、かわいすぎますって。小ちゃなお口ですこと。



「夏美美味しい?」


「おいち」



 んん!! がわいい!!

 天使かな。天使だよ。いや女神。もうやばい。何この子。夏美ちゃんです。かわいすぎやしない!?

 『おいち』だって。がわいい。あ、そうそう『まんま』『にいに』『おいち』『ワンワン』くらいなら喋れるんですよ、うちの妹。天才すぎる。



「ふふ、お兄ちゃんありがとうね」


「お母さん、夏美も美味しいって」


「そうね。よかったわ」



 母さんは、俺たちを微笑ましそうに見てる。なんかむず痒い。人に向けるのはいいけど向けられるのはなんかこお違うというか。母さんが母さんである以上免れないけどさ。




◇◇◇


「冬人ご飯できたよー」


「はーい。ご飯!」


「だぁ!」



 今日のご飯は何かなぁ。

 鮎!?

 え? こんなん、食卓にでんの!? というか、どこで買ったの!? スーパーとかにないイメージだけど。にしても、やばい。俺の認識が正しければ高級魚よね。

 やったー!!!!

 前世と合わせて初鮎よ!! たぶん。

 やったー!!!!



「冬人、お米入れるから運んでくれる?」


「うん」



 ワクワクが止まらない。



「じゃあ、食べましょうか。いただきます」


「いただきます」「まー!」



 えらいねー。『まー』だって。ほんまかわいい。母さんが、鮎の身を取ってあげてる。



「冬人、骨危ないから取ろうか?」


「ううん。自分でとる!」


「そう。難しかったら言ってね」



 母さんに取り分けてもらった鮎をフォークでガツガツたべてるねー。美味しいんか。そりゃあ、美味しいよな。さて、俺も。

 パク。

 うんっま。何これ。ふわふわなんだけど。なんじゃこりゃぁぁぁ!!

 うんまうんま。箸止まんない。母さんの子でほんとよかった。そりゃあ、夏美もパクパク食べるわ。だってうまいもん。だってうまいもん。大事な事なので2回いいました。

 でも、細い骨が結構あるな。気をつけないと。



◇◇◇


「美味しかった」


「ねー。美味しかった」


「おいち!!」



 夏美ご機嫌。俺もご機嫌。母さんもご機嫌。みんなご機嫌。美味しいものは、全てを解決する。これは真理よ。



「「ごちそうさまでした」」「だぁ!」




 ごちそうさまをして、食器を片付ける。

 あとはお風呂に入って歯磨きして寝るだけ。

 ふわぁー。眠くなってきた。

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