第十一話 できるようになったんならさっそくリベンジだ!
あれから数日、同じように集中を重ねることで飯垣は空離仙心流の基礎である周囲の空間の把握を僅かながら会得するに至っていた。
その範囲は2,3メートル程度で、一度集中が途切れてしまうとしばらくは同じ感覚を掴めないといった半端なものであったが、飯垣にとっては十分過ぎる成果だった。
「よし、これでいける。今度こそリベンジだ!」
「え?いや、それはまだ無理じゃない?まだ竹林の中を走り切ることもできてないんでしょ?」
「途中まではいけるし。数メートルありゃ、接近戦には十分だろ。いけるいける!」
(そんな浅いものじゃないと思うけどなぁ。でも変に調子付いちゃってるし、これは止めるのは無理かな)
影沼は飯垣の勢いからそう判断してから、これも経験だろうし無理に止める必要もないかと思い直した。
「そっか。まぁ頑張ってね」
「おぅ!じゃ、行ってくる!」
言うが早いか飯垣は教室を出て行った。
そしていつもの竹林に丸井は居た。
「丸井!空離・・・なんとか流ってのは会得したぞ。今度こそリベンジだ!」
「いきなり来たかと思えば、まず教師を呼び捨てにするなと・・・はぁ、もういいか。注意するのも面倒だ。そして空離仙心流だ。このくらい覚え・・・いや正当な門下生ではないお前には覚えられないほうが良いのか?これもまた面倒臭いな。。」
丸井が教師と流派の先達という立場で飯垣への対応に悩んでいると、焦れた飯垣が戦闘態勢をとって叫んだ。
「んなことはどうでもいいんだよ!さぁ勝負だ!」
「人の悩みをどうでもいいとは。それに空離仙心流を会得しただと?私でさえ未だ修行中の身だというのに簡単に言ってくれる。良いだろう、その力見せてみろ」
そう言うと丸井の雰囲気が変わった。相変わらず構えてはいないが以前まではなかった威圧感が飯垣には感じられた。
(多少はやる気になったってことだな。良いじゃねぇか!)
闘志を刺激された飯垣は、全速力で真正面から渾身の一撃を叩き込んだ。
しかし、丸井はそれを読んでいたかのように半身をずらして躱し、その腕を横から払った。それにより少しバランスを崩した飯垣が反撃に備え下がろうとした時、背後に気配を感じた。
(なっ!?)
感覚に逆らわず咄嗟に前方に跳ぶと、その背後を何かが通り過ぎるのを感じた。
一回転して起き上がり振り向くと、そこには手刀を下ろした丸井の姿があった。
「このくらいは察知するようになったか。まったくの
感覚を信じなければ以前と同じ様にあの手刀で伸されていただろう。
直前まで丸井は正面に居たはずだった。
(どうやって、一瞬で背後に回ったんだ?)
考えていると次の瞬間、今度は目の前に気配を感じると同時に額に衝撃が走った。
「っ!」
「反応が遅い。気づけても対処できなければ意味がないぞ?」
目の前に指を突き出した丸井が居た。今のはデコピンをされたらしい。
(まただ。直前まで正面に居た丸井を見ていたはずなのに)
まるで瞬間移動でもしたかのように一瞬で間合いを詰められている。
このままではまた何もできずに負けると判断した飯垣は能力を発動させた。
その体から蒼い炎が立ち上る。
飯垣はその場で足払いを仕掛け、回避した丸井目掛けて拳を突き出した。
回避した直後にも拘らず、丸井はその拳の威力を殺す形で軽く受け流した。
(あ、当たらねぇ。何でそんなことができんだ?)
その後も飯垣は能力を全開にして連撃を仕掛けるが、どれも不自然なほど完璧なタイミングで対処される。しかも目の前にいるはずなのに飯垣にはその動きが見切れなかった。
その上、不意に死角から気配を感じるのとほぼ同時に丸井の手刀がそこに振り下ろされるのだ。能力任せで全力回避することでどうにか避けられているが、丸井がどうやってそんな攻撃を仕掛けているのかも見ることができない。
「仕方のないことだが、目に頼り過ぎだ。お前の場合、能力による強化もあるからなおさらだな。まぁ、私の攻撃に反応できるようになっただけ成長はしているか」
「うるせぇ!四の五の言ってねえでかかって・・・うっ、く」
言いかけた飯垣が急に動きを止め、その身に纏った蒼い炎が赤色に変わる。
「オーバーヒートか。限界の様だな」
飯垣の異能ヒートアップは身体能力を劇的に向上させるが、使い過ぎるとオーバーヒート状態となり自身もダメージを受けるようになってしまう制限があった。
「ざけんな。まだまだこれからだ!」
「まったく、困ったものだな」
瞬間、飯垣は察知するよりも早く足を払われて倒れた。
「っだ!」
「その辺にしておけ。体調不良で学園を休まれても困る。それにこれ以上やっても同じだ。基礎である空間の把握はできるようになったようだが、それでは気づけるだけだ。空間を支配し己のものとできなければ私に攻撃を当てることはできない」
「し、はい?」
「竹林での修行は基本だ。動くものが相手でも同様のことができるようにならなければその動きを知ることはできない。・・・忠告が過ぎたな。この短期間でそこまでできるようになったことは評価しよう。では、これで失礼する」
「ま、待ちやがれ。まだ・・・」
言いかけた飯垣だったが、既に限界を迎えていた身体に丸井の一撃がとどめとなりそのまま気絶した。
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