第三話 素性調査失敗?なら素行調査だ!

クラスメイト達を唆して威力偵察を済ませた飯垣は正攻法では勝てないと結論付けて、丸井の素性調査を行うことにした。


「丸井先生の過去や流派などが分かれば、そこから対抗手段を見つけられるかもしれない」


と灰斗からアドバイスを貰ったからである。

しかし、その調査はのっけから難航することになった。他の教師陣に聞いても誰も丸井のことは知らず、ある教師から学園長がスカウトしてきたということを聞けたくらいである。そして学園長は現在とある事情で学園に不在であった。


「何で誰も知らねぇんだよ。そんな身元の分かんねぇ奴を教師にしていいのか?」


「まぁ学園長が保証人みたいなものだからね。学園に来てまだ1ヶ月くらいだけど、無愛想なこと以外は素行に問題はないし」


「灰斗、お前どっちの味方だよ?お前が言うから調べてみたんだぜ?」


「そんなこと言われてもね。僕も普段の様子とか知り合いに当たってみたけど、大した話は聞けなかったし・・・」


と、そこで灰斗はとある生徒から聞いた話を思い出した。


「あぁ、そういえば朝早く先生を見た人が居るって聞いたくらいかな」


「朝早く?それって何時頃なんだ?」


「6時くらいって言ってたかな。新聞配達の帰りに見かけたらしいよ。運動着みたいなのを着て汗もかいてたみたいだからジョギングでもしてたんじゃないかって」


「それだ!そういうのだよ。きっと秘密の特訓とかしているに違いねぇ」


「そうかなぁ」


「そうだって。そうと決まりゃ張り込みだ。6時には終わってるらしいから4時くらいから張り込みすりゃ捕まえられんだろ。丸井の家は分かるか?」


「まぁ、そのくらいはね。島内で良かったよ。流石に島外から来てたらお手上げだったし」


「よし。それじゃ、さっそく明日の朝に張り込み開始だ!」


「頑張ってね」


やる気なさげに手を振る影沼に対して、飯垣が勢い込んで詰め寄ってきた。


「いやなに他人事みたいに応援してんだよ。お前も来るに決まってるだろ」


「え~やだ~」


「やだ~、じゃねぇ。お前だって丸井が何してんのか気になるだろ?」


問われて一瞬考えた影沼だったが、答えはすぐに出た。


「気にはなるけど、睡眠を諦めるほどじゃないかなぁ」


「良いじゃねぇか1日くらい」


「う~ん・・・まぁ1日くらいならいいか。仕方なくだからね?」


「そうこなくっちゃな。よし、そうと決まれば今の内から寝溜めしておかねぇと」


「授業サボったらまた怒られるよ」


影沼は呆れたようにそう言った。

その後、影沼の予想通り居眠りに気づかれた飯垣が教師に怒られるという一幕はあったりしたが、無事?に夜を迎え、次の日の早朝ともいえる時間に二人は丸井の家の前で集合した。


「家は普通っぽいな。あんな奴が住んでるんだからでかい家とか変な家じゃないかと思ってたんだが」


「偏見が過ぎるよ。謎の力は持ってるけど教師としては普通だし、この島にそんな変な家はなかったと思うよ?」


「なかったら作ればいいだろ?」


「それはそうだけど、こんな島で変な家が建てられてたらそれこそ噂になると思うよ?」


「それもそうか」


飯垣はそれで納得したようで、視線を丸井の家に戻した。

少しすると丸井が家から出てきた。聞いていた通り運動着を着ている。


「お、マジで出てきた。こりゃ秘密の特訓でもしているに違いねぇな」


「早朝に家から出てきただけでその結論は極端すぎるよ」


「良いから追うぞ」


「はいはい」


そうして二人は丸井の後を尾行し始めた。

静まり返った住宅街を一つと二つの人影が進んでいく。丸井はジョギングのペースで歩を進めていた。飯垣達は足音を聞かれない様に少し離れて同じ速さでついて行く。


「やっぱりただのジョギングじゃない?」


「い~や、絶対になにかあるはずだ。俺の勘がそう言ってる」


「舞人の勘が頼りになったことあったかなぁ」


そんなやり取りをしつつも尾行を続けていると、とある交差点を曲がった先で突如丸井の姿を見失った。二人は慌てて見失った先を探してみるが、どこにも丸井の姿はなかった。


「くそっ!どこ行きやがったんだ」


「たぶんだけど、尾行に気づかれたんじゃないかな~そういえば、先生って気配に敏感だったみたいだし」


「あれだけ離れてたのにか?それじゃ尾行なんて無理じゃねぇか」


「そうだね。それが分かったことだし、もう帰ろうよ」


早起きしたために眠気が残る頭で影沼がそう提案したが、飯垣は少し思案した後にその提案を拒否した。


「・・・いや、俺は諦めねぇ。逃げたってことはやっぱり何か隠してるに違いねぇ。島中探してでも見つけ出してやる!」


「そっかぁ。頑張ってね。僕は疲れたから帰って寝直すよ」


無駄に熱意を燃やす飯垣とは対照的に、無駄を悟った影沼は飯垣の説得を諦めて帰ることにした。


(この距離で気づかれたってことは、仮に先生の場所に近づけてもまた逃げられるだけなんだよなぁ。言っても舞人は聞きそうにないし、好きにさせとこう)


その二人の様子を少し離れた電柱の上から眺める人影の姿がった。


「人を尾行するつもりならせめて気配は隠してほしいものだな。それにしても私生活にまでちょっかいを掛けられるとは、教師というのは厄介な職業だな」


そう呟くと人影はいずこかへと姿を消した。

その後、飯垣は言葉通り島中を駆けずり回って丸井を探したが最後まで見つけることはできなかった。そして当然のごとく遅刻してまたトイレ掃除の罰を課されることになった。

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