第二話 あれは小手調べだ!
放課後、飯垣は机に突っ伏してダウンしていた。
「舞人、その無暗に教師に喧嘩売るの止めたほうが良いよ」
「うっせぇ。くそっ、あんな奴に負け・・・いや、不覚を取るなんて」
そういって飯垣は力なく机を叩いた。
「異能まで使っちゃって。罰がまた重くなっても知らないよ」
この学園では校則違反に罰則が定められている。
軽いものは学校の掃除や荷物運び程度だが、重くなると禁固されることもある。
開校当初は当然学生たちは従わず異能を使って反抗したのだが、それに対する対応方法は至極単純なものだった。すなわち人海戦術である。
いくら異能持ちとはいえ学生である。周囲が海の孤島で大人たちに囲まれたら抵抗できるのにも限度はあった。
さらに、年が経つと一時的に異能を無効化する装置の発明や、卒業生の一部が教師となることで、学生の抵抗を抑えられる要因が増え、罰を犯す者や抵抗する者も減ってきていた。
「そんなこと言うなよ、灰斗。お前ならバシッ!っとやるのも簡単だろ?」
「やらないって。そんなのバレた瞬間に酷い目に合うじゃないか」
灰斗と呼ばれた少年、
「それにしても何者なんだろうね?僕も近くで見てたけど、舞人が何されたのか全く分からなかったよ」
「あぁ、絶対只者じゃねぇ。初見だったはずの俺の能力にも即座に対応してきやがった」
「まぁ、事前に能力くらいは聞かされてただろうけどね。この学園の卒業生ってこともなさそうだったし。何にしても動きづらくなりそうだなぁ」
「お前は良いじゃねぇか。異能使っても捕まることなんてほぼないんだし」
異能使用の罰則は基本現行犯である。つまり異能使用の現場を見られなければ罰を受けることはない。
影沼の異能はタイムコントロール、つまり時間の流れを変化させる力だ。
もちろん限度はあるが数秒程度であれば停止した時間の中で自分だけが動くことも可能だった。そのため、時止めの数秒間であれば何かをしても見られる心配はほぼなかった。
「それにしても他の奴らも情けねえな。俺が気絶した後誰も続かなかったんだろ?」
「そりゃそうだよ。クラスで一番分かりやすい武闘派が初手で気絶させられたんだよ?しかも手段も不明ときたら様子見に回るのが妥当でしょ」
「そうかよ。手段、手段かぁ~そうだ!丸井は実は元々超能力者だったっていうのはどうだ?あの隕石とは無関係でよ」
「そうだね。現に僕達みたいな超能力者が生まれている以上、過去に同じような人間が居たとしても不思議ではないね。ただ、一度目も二度目も舞人が負けた時に丸井先生が能力使ってる感じはしなかったんだよねぇ」
「負けてねぇって、あれはその・・・挨拶みたいなもんだ。うん」
「二度目も?」
「二度目は・・・小手調べ、そう小手調べってやつだ!」
上手い言い訳を思いついた!とばかりに飯垣は人差し指を立ててそう言ってきたが、影沼の反応は淡泊だった。
「まぁ、舞人がそういうならそれでもいいけどね。実際、丸井先生も戦ってる感じじゃなかったし」
「ぐっ」
そう。あれはどう見ても本気を出している雰囲気ではなかった。面倒な生徒に絡まれたから適当にあしらったという感じだった。
舞人が能力を使った時でさえ構えすらもしていなかったのだ。
「そういえば、二度目の時、この程度のことならできる人間は他にもいるとかいってたね。丸井先生みたいな人が他にもいるってことなのかな?」
「いやいや、あり得ねぇだろ。あんな化け物がそう何人もいて堪るかって」
「そうかな?先生の言う通り世界は広いからね。僕たちの知らない何かがあるのかもしれないよ?」
「そんなもんがあるならぜひ教えて欲しいもんだな。そうすりゃあいつにぎゃふんと言わせてやるってのに」
「先生のことをあいつとか言わないようにね。バレてまた痛い目に合っても知らないよ」
その後も二人は他愛もない考察という名の雑談をして放課後を過ごしていた。
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それから二週間後、二十名程の生徒が罰として構内の清掃や手伝いをさせられた。それはイコール飯垣達に唆されて、丸井にちょっかいを掛けた生徒の数でもある。
ある生徒は麻痺毒の針を飛ばしたが跳ね返され、ある生徒は風で丸井の動きを封じようとしたが、風の流れを狂わされ逆に吹き飛ばされた。
他の生徒もそれぞれ自らの能力を使って丸井の視界外から行動したにも拘らず、何故か気づいた時にはその能力を利用されて痛い目に合っていた。
なお、罰を無視した生徒は1名のみであった。
何故ならば舞人が罰のトイレ掃除をサボった翌日の放課後、下校最終時刻まで丸井に延々と説教されていたという話が学校中に広まったためである。
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