第一話 あの新任教師、なんなんだよ!?

異能学園。それは様々な異能を持った子供達を集めた教育機関である。

十年前、日本近海に飛来した隕石により、海辺の都市は大損害を受けた。

原因となった隕石は調査のためとある研究所に運び込まれた。

調査の結果、その隕石には未知の新エネルギーが含まれていることが発覚し、

現在も調査が続けられている。


そして、その頃から世界中で子供たちの中に異能を発現する者が現れだした。

その数は年間に五十人程度ではあったが世界に混乱をもたらすには十分だった。

力を振りかざす者、力のせいで迫害される者、各々の思惑で力を隠す者など、個人の思惑と周囲の考え方により様々な反応があったが、世界の首脳陣は最終的に異能を持つ者達を一般社会に置いておくのは危険だと判断された。

そのための能力者が一番多く、かつ隕石が落下し新たな陸地となっていた場所に異能者を集めるための学園が新設された。それが異能学園である。


異能者達を学園に纏め隔離することで世界は一応の平穏を取り戻した。

しかし、異能学園の方はそうはいかなかった。

問題児が多い学生達に正しく指導できる教師が居なかったのである。

何人もの教師が生徒の反抗により辞めていったが、生徒側もあからさまに問題を起こすと犯罪者となってしまうことを理解し、学園はぎりぎりのバランスを保っていた。


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コンコン。扉がノックされる。


「入りたまえ」


その声に新任教師、丸井花子は学園長室へ入室した。


「丸井君、よく来てくれた。私が学園長の露木つゆきだ。早速本題に入るが、君にはこの学園で社会科の講師をお願いしたい」


「私に教師が務まるとは思えませんが」


「教員免許は持っているだろう?」


「師に取るよう言われましたので」


「それなら何の問題もない。というより君の様な者でなければ務まらないといったほうが正しいか。この学園のことは知っているだろう?」


露木の問いに、丸井はほんの少し考えるような仕草を見せたが、当たり障りのない答えを返した。


「異能力者の学園ですか。話には聞いていますが、私と何の関係が?」


「君の師もそうだが、君達は自身の能力を生かすことに無頓着すぎるな」


「日々の鍛錬は心身を鍛えるためのもので、他人にひけらかすものではありませんから」


丸井の取り付く島もない発言に、露木は頭を抱えかけたが彼女がこういう性格であることは分かっていた。それにここまで来たということはこちらの頼みに応える気があるということだ。そう思い直して露木は話を続けた。


「まぁそう言わんでくれ。知っての通り彼らの異能は厄介極まりない。学生ということもありいつ暴発するかも分からない。教師としてそれを抑えられる人間が必要なのだよ」


「そうですか。私などに務まるかは分かりませんが、指示であれば従いましょう。師の勧めでもありますし」


「引き受けてくれて助かるよ。他にも探してはいるのだがなにぶん所在不明な人物が多くてね」


「そうですか。頑張って下さい。それでは失礼します」


「やれやれ。他の者達も彼女の様に素直であれば苦労しないのだがね」


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飯垣は授業が終わってしばらくしてから目を覚ました。

何をされたのか分からなかった。いや何かされたことにすら気づかず倒されていた。そして放置された。つまりは歯牙にもかけられていないということだ。


「くそっ。目の前で攻撃されて気づきもしないはずがねぇ。何かしやがったんだ。そうに違いねぇ」


そういうと飯垣は廊下に飛び出した。すると職員室へ向かう途中でちょうど向こうから歩いてくる丸井に気づいた。


「居た!おい、さっきは何をしやがった」


「起きたのか。何をとは?言った通り罰として1度叩いただけだが」


「ふざけるな。気を失う瞬間まで目の前に立ってるお前を見てたんだ。攻撃動作に気づかないわけねぇだろ」


「あぁ、見えなかったのか。それで、私が何か別の方法でお前を気絶させたと?」


「そうだ。だからやり直しだ。今度は油断しねぇ」


「困ったものだな。まぁいい。ここは廊下でお前から話しかけてきた。つまり偶然だ。私が学校中に仕掛けを用意しているのでもない限りここで変な方法は使えない。良いな?」


「あぁ、そうだな。今度は都合良くいかねぇぜ」


「分っているのか?まぁいいか。さっさと来い」


そう言いながらも丸井は無防備に突っ立っている。


「舐めやがって。いくぞ!」


そういうと飯垣は一足飛びで丸井に近づく。拳を構え打ち込もうとしたその時。

――トン


「ぐっ!」


軽い音に似合わない鋭い衝撃が首筋に叩きつけられる。

2回目ということもあり飯垣は辛うじて気絶することなく手をついて耐えた。

目の前には丸井の足が見える。


「耐えたか。それで、今度はちゃんと見えたか?」


見えなかった。衝撃を受けて初めて攻撃されたことに気づいたのだ。


「この、化け物が」


「異能を持つ生徒に化け者扱いされるとは私も大概だな」


「舐めるな!もう容赦しねぇ」


言うと飯垣の全身から蒼い炎のようなものが立ち上る。

周囲にいる生徒たちは慌ててその場から離れていった。

しかし、丸井は気にした風もなくその場に立っていた。


「不必要な異能の使用は校則違反だ。今すぐ止めればトイレ掃除は勘弁してやるが?」


「知るか!その余裕面、ぶっ飛ばしてやる」


異能により強化された身体能力で丸井の背後を取り奇襲を仕掛けた。

蹴りだした右足が丸井の頭に吸い込まれるように近づいて行き・・・突如現れた右手に止められた。


「なっ?!」


「先手は譲ったぞ」


次の瞬間、飯垣の全身に悪寒が走る。気づいた時には目の前に丸井の手刀が迫っていた。軌道はまた首筋を狙っている。飯垣は咄嗟に体を捻ってそれを避けようとしたが、躱しきれずに手刀は肩口を浅く掠めた。

途端に襲い来る掠めただけとは思えぬ衝撃と無理な姿勢を取りバランスを崩したことで、彼は廊下に倒れこんだ。


「逃れたのは流石の身体能力だな。しかし、変に避けられると加減を誤るから勘弁してほしいのだが」


飯垣は彼女の追撃に備えるべく素早く立ち上がろうとした。が、その時に気づく。

左肩が脱臼していた。いくら能力を向上させてもこれではまともに戦えない。


「何を・・・しやがった」


「君はそればかりだな。少しは自分で考えたまえ。といっても単に蹴りを防いで手刀を当てようとしただけだが」


「そんなわけがねぇ。そもそも何で異能を使った俺よりも早く動ける!?」


「井の中の蛙、大海を知らずだな。覚えておきたまえ。この程度のことならできる人間は他にもいる」

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