第四話 空離仙心流武術?超能力じゃねぇのかよ!
丸井が教師になって一か月半がたった頃、学園長の露木が学園に戻ってきた。
影沼からそのことを知った飯垣は、待ってましたとばかりに学園長室に向かい、扉を乱暴に押し開けた。
「学園長、丸井って何者なんだ?アンタがスカウトしたんだろ?」
「飯垣君か。まず教師を呼び捨てにするのは止めなさい。それに丸井先生に度々突っかかっているという話も聞いている。前々から言っていることだが、教師に喧嘩を吹っ掛けるのは止めてくれないだろうか」
「あんたに文句を言われることじゃねぇだろ」
「いや、学園を預かるものとして教師からの苦情に対応するのは、十分その範疇に含まれると思うが」
露木は苦々しい表情で飯垣に苦情を投げかけるが、飯垣はそんなもので大人しく言うことを聞く人間ではなかった。
「そんなことよりあいつのことだ。アンタなら何か知ってんだろ?」
「ふぅ、やれやれだね。それが人にものを頼む態度かね?」
「分かった。それなら、今後は丸井以外にちょっかいは出さない。これでどうだ?」
「丸井君も教師なのだが。まぁ仕方ない、その約束が守れるのであれば答えよう」
「あぁ、約束する。で?」
露木は表面上は態度に出さなかったが、予想通りの結果に内心では喜色を浮かべた。これで他の教師が被害にあうことは無くなるだろう。
「丸井君のことだな。といっても私もそこまで詳しいことを知っているわけではないのだがね。私は丸井君の師である人物と交流があって、話の流れから彼女の修行の一環にもなるということでうちの教師を引き受けて貰ったのだよ」
「修行の一環?」
「そうだ。彼女はある武術の修行中の身だ。しかし、事情があって人と接する機会が極端に少なかった彼女は感情や対人関係の経験に乏しい。そのままでは修行に支障が出てくるため、うちで教師としてそれを学ぶことになったわけだ」
それだ!やっと丸井の強さのヒントを掴んだ飯垣はさらに露木に詰め寄った。
「その武術ってのは?」
「・・・その武術は表には出ていない。私も強く口止めされたわけではないが、ここからの話は他言無用としてくれよ?」
「わかった」
あっさりしすぎて全く信用できない「わかった」であった。恐らく深く考えていないだろう。あとで影沼君にも口止めを頼んだほうが良いなと露木は考えていた。
「その武術は空離仙心流というものだ。空離仙心流武術とは、その名の通り空間という己の周囲全てを可能な限りの距離において把握する、ということを極める武術らしい」
「自分の周りの全てを把握する?なんだそれ、超能力じゃないのか?」
「私にも違いは分からんがね。彼らはそれを修練で身につけるという話だ。達人になると数キロメートル先からスナイパーライフルで狙われていることすら把握して躱すことが可能だそうだ」
「なんだそれ、化け物じゃねぇか」
「まったくもって同意だね。そして当然そんな距離までの全ての情報など人間の脳では処理しきれるはずもない。そこで彼らは、それらが発する気から心理状態まで読み取り、自分に害意の無いものは無視することができるという話だ」
あまりに突飛な話に飯垣の脳が理解を拒否してパンクし始めていた。
「ありえねぇ。そんなもん人間業じゃねえだろ。アンタそんな話信じてんのか?」
「残念ながらね。なにしろ私の友人であり丸井君の師でもある人物がまさにその達人の一人だ。今の話を信じざるを得ないような場面に出会ったこともある」
露木に嘘を言っている様子はなかった。こんな与太話としか思えないような話を至極真面目に語っていた。
(空離仙心流武術?分かんねぇ。何やったらそんなことが可能になんだよ)
信じられないような話ばかりだったがとりあえず情報は得られた。あとは灰斗にでも相談しよう。痛む頭でそう判断した飯垣は学園長室を出ることにした。
「あ~とりあえず分かった。あとはこっちで調べるわ。邪魔して悪かったな」
「まったくだ。次からはアポくらい取って欲しいね。まぁ健闘を祈っているよ」
露木の言葉を背中に聞きながら飯垣は自身の教室に戻っていった。
「・・・これで問題のいくつかは解決できそうだな。丸井君からは苦情が来そうだが、これも修行の一環といえばなんとかなるだろう。あとは・・・」
まだまだいくつもの問題を抱えている異能学園の学園長は、そうして次の問題の対応に頭を悩ませるのであった。
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