第十八話 さあ、今度こそ再戦だ!

あれから数日後、再び五人は竹林の広場に集まっていた。

そう。何故か八坂もまた付いてきていた。執事付きで。


「八坂、お前まで付き合う必要はないんだぞ?」


「いえ、私もお二人の対戦を見てみたいのですわ。」


などと言いながら、八坂は執事が用意した簡易的な椅子に腰かけ、竹林にはまるで似合わない優雅なティーセットで紅茶を口にしている。


(あまり人に見せるものではないのだがな。こちらの都合で巻き込んだ以上仕方ないか。)


渋い顔をしながらも自分の不手際と判断した丸井は、それ以上は口にするのを止めた。


「ったく、見世物じゃねぇぞ。一人で茶なんか飲みやがって。」


「あら、飯垣さんもお飲みになります?」


「いらねぇ。んなことより今度こそ勝負だ。丸井!」


「やれやれ。お前はもう少し目上の者に対する態度というものをなんとかできないのか…まぁいい、それでは始めるとするか。」


「舞人~まぁ、せいぜい頑張ってね~」


気の無い応援をする影沼は、ちゃっかり椅子に座って執事さんからの持て成しもてなしを受けていた。


二人は少し距離を取って対峙した。丸井はいつも通り構えも取らずに自然体だ。


「さて、それでは改めて修行の成果を見せてもらおうか。」


「余裕こきやがって。今度こそぶっ飛ばしてやるから覚悟しやがれ!」


言うなり飯垣が飛び出した。まっすぐに突き出した拳が丸井に迫るが――

その瞬間、飯垣は幻視のようなものが見えた。静止したかのような時間の中で丸井がゆらりと拳の軌道から逸れて自分の側面に回ろうとしている。


(させるか!)


その幻視を打ち破るために、思いを拳に乗せるかのように丸井の動きに意識を集中する。


――ばしっ!


飯垣の拳を、僅かに左にずれた丸井がその右手で受け止めていた。


「ふむ。やはり空握を多少なりとも使えるようになっているな。」


「空握?なんだそりゃ。」


「私の動きを読んで阻害しただろう?それのことだ。門下の外の者にこれ以上詳しく教えるつもりは無い。それにしても、まさか本当に見て盗まれるとは思わなかった。口は禍の元というのは本当だな。」


【空握】把握した空間を自分のものとして、その中でなら常に相手より有利に立ち回れるようにする技術。それが飯垣が影沼や赤石、そして蜂達の動きに届いた感覚の正体だった。


「へっ。んなもんいらねぇよ。要は、これでてめぇに避けられることは無くなったってことだろ?それだけ分かりゃ十分だ!」


修行の成果を実感し、それが丸井にも通用すると分かった飯垣は、獰猛な笑みを浮かべて戦闘を再開した。


空離仙心流同士の戦いは、空握での鬩ぎ合いせめぎあいになる。いかに自身に有利な空間で相手と戦えるか、感覚的には間合いの取り合いに近いのかもしれない。普通の間合いと異なるのは、自身の支配した空間内であれば優位に立てることである。

飯垣が初めて丸井に喧嘩を売った時に、動きを読めなかったのもこれが理由だった。そして技術というのは熟練者ほどその効果を発揮できる。つまり――


「あ、当たらねぇ。それにあの感覚も…丸井、今度は何をしやがった?」


「何を、と言われてもな。お前の空握に抵抗して、私が周囲の空間を支配しただけだが。見様見真似で空握まで使えるようになったのは見事だが、覚えたてのひよっこに負けてやるほど私は甘くはないぞ?」


そう言って、丸井はにやりと普段は見せない楽しげな笑みを浮かべた。

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