第十四話 隕石の調査
研究室の照明が白い光を投げかける中、解析チームは隕石を囲んで議論を続けていた。隕石の表面は滑らかで黒く、一見して金属のように見えるが、実際にはどんな素材かすらわからない。
「隕石の解析の方はどうだ?」
そこに一人の男が入ってきてチームのメンバーにそう訪ねた。
「神崎主任!お疲れ様です。いやぁ、いまいちですね。宇宙からの飛来物なので仕方ない部分もありますが、完全に未知の素材でウルツァイト製のカッターでも傷一つ付きません。ただ内部に存在するエネルギーらしきものが徐々にその数値を増やしているようです。もしそれを取り出して何かに転用可能であれば、これはエネルギーを生み出す隕石として世紀の大発見になるかもしれません」
「ほぅ。エネルギーを生み出す隕石か。それは興味深いな。」
「えぇ。ただ、どうやってエネルギーが生み出されているのかその原理が不明なんですよね。色々調べてはみましたが周囲から何かを取り込んでいるわけでもなさそうですし、内部で何かの活動を行っているわけでもない。それなのにエネルギーは少しずつ増加傾向にあると。これだけ見るとちょっと不気味にも感じませんか?」
「気にし過ぎではないか?増えて困るものではないだろう?」
「確かにそうなんですけどね」
「神崎主任、これを見てください。」
若手研究員の三島が、モニターを指差した。その画面には、隕石のエネルギー波形が映し出されていた。
「この周期的な波形、何かのパターンに見えませんか?自然現象にしては、あまりに規則的すぎます」
神崎は椅子から立ち上がり、眉間に皺を寄せながらモニターを覗き込んだ。
「確かに・・・これはただの物理現象ではないかもしれないな。だが、これだけではこのエネルギーがどのように生成されているのか、その仕組みを解明するには足りない」
彼の言葉に、三島は首をかしげた。
「外部からエネルギーを取り込んでいる形跡はないし、内部で核融合のような反応が起こっているわけでもない。なのにエネルギーは増え続けている・・・まるでまったく別のところからエネルギーを取り込んでいるように見えます」
「まったく別のところから、か」
神崎は腕を組み、しばらく沈黙した後、ふと誰にともなくつぶやいた。
「まるで、異能だな。落ちてきたタイミングといい、やはり何か関係がある可能性は高そうだな」
エネルギーの動きを追跡するため、チームは隕石の内部構造を再度スキャンすることにした。だが、新たな解析結果は予想を裏切るものだった。
「おかしいです。」
三島が声を上げた。
「さっきまでと内部の構造が変わっています。」
神崎はすぐに画面を確認する。
「変わった?どういうことだ?」
「ええ。先ほどのデータでは中心部に一定の密度を持ったコアのようなものがありましたが、今はその形がわずかに変化しているんです。」
「内部が動いている、ということか?」
神崎の声に、室内の空気が張り詰める。
「可能性はあります。」
三島は慎重に言葉を選びながら続けた。
「もしこの隕石が単なる物体ではなく、何らかのプロセスを進行させているとすれば…私たちはそれに気づかずにいるのかもしれません。」
「プロセス、ね。」
神崎は静かにため息をついた。
「わかっていることは、この隕石が単なる『物質』ではないということだ。だが、それ以上はまだ仮説に過ぎない。」
その夜、研究所内はいつも以上に静まり返っていた。多くのスタッフは休憩を取っており、深夜の作業に残ったのは神崎と三島、そして数人の補助員だけだった。
隕石を収めた専用の隔離室では、通常なら聞こえるはずの機器の作動音もどこか小さく感じられるほど、周囲が不気味に静かだった。
「主任、この音、聞こえますか?」
三島が小声で尋ねた。
「音?」
神崎が耳を澄ませると、確かにどこからともなく微かな振動音が響いていた。それは、隕石が発しているようにも思えるものだった。
「これは…隕石からだ。」
神崎は隔離室に備えられたモニターに目をやった。エネルギー波形が不規則な動きを見せている。
「周期的だった波形が乱れているな。まるで何かを伝えようとしているかのようだ。」
「でも、何を?」
三島の問いに答える代わりに、神崎は黙って画面を見つめ続けた。
その時、不意に隔離室のライトが一瞬だけ点滅した。次の瞬間、隕石の表面にかすかな発光が現れたのだ。
「主任、これ、明らかに異常です!」
だが、神崎は冷静だった。
「何かを発する兆候だ。だが、それが我々にとって良いことか悪いことかはまだわからない。」
発光はすぐに収まり、隔離室内は再び静寂に包まれた。隕石のエネルギー波形も、通常の周期的なパターンに戻っていた。
「ただの偶然でしょうか。」
三島がぽつりとつぶやく。
「偶然かどうかは、今後の観察で判断するしかない。」
神崎はやや疲れた様子で椅子に腰を下ろし、深く息を吐いた。
「だが、我々は大きな何かに近づいている気がする。それは興味深くもあるが・・・少し怖くもあるな。」
その言葉に、三島も思わず黙り込んだ。心のどこかに、漠然とした不安がよぎる。
「まあ、今日はここまでにしておこう。」
神崎が立ち上がると、彼の背中にわずかな疲労感がにじんでいた。
研究所を後にした三島が見上げた空は、満天の星空だった。宇宙からやってきたあの隕石は、一体何を秘めているのか。そして、その先に待つものは――彼にはまだ知る術もなかった。
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