第十六話 いざ再戦!と思ったら、条件を付けてきやがった!
「またお前たちか。私もそんなに暇ではないのだがな」
意気揚々と丸井のもとへやってきた飯垣(と影沼)に対して、丸井は呆れたようにそう声を掛けた。
「いいじゃねぇか。ちょっとくらい。生徒が頼んだら応えてくれんのが教師だろ?」
「教師だからという理由だけで何でも対応したりはしないだろう。お前に付き合ってやっているのはショートケーキの借りがあるからだ」
「なら、またそのケーキ奢るからよ?」
「あれは不意打ちだったから仕方なくだ。ケーキ一つで簡単に操れるなどと思われては困る」
(前回はそれでコロッと答えたじゃねえか)
飯垣はそう思ったが、機嫌を損ねられては困るため何とか口に出すのを堪えた。
「んなら、どうすりゃ手合わせしてくれんだよ?」
「ふむ・・・飯垣、前回私との手合わせ以降に誰かと勝負したりしたか?」
丸井からの突然の質問に少し戸惑った飯垣だったが、関係はありそうな話であり、特に隠すようなことも無かったため大人しく話すことにした。
「あぁ、赤石が喧嘩を売ってきたから相手はしたな。一応言っておくが学園外での話だぞ?」
「ほぉ、赤石瞬か。それで結果はどうだった?」
「……引き分けだ。赤石の方がやる気を無くして勝手に帰ってった」
一瞬言い淀んだが、詳細を話すとぼろが出るかもしれないと思った飯垣は端的に事実だけを答えた。丸井はその様子を興味深げにみていたが、少し考えてから何かを思いついたように口を開いた。
「それなら、私からも一人手合わせの相手を用意しようか。その結果を見て、相手をするか判断することにしよう」
「なんでだよ。どうせ戦うんなら丸井が、…丸井先生が相手してくれれば良いじゃねえか」
わざわざ言い直した飯垣に、丸井は珍しく驚いた表情を浮かべた。そして、少し楽し気に笑みを浮かべながらこう言った。
「お前に先生と呼ばれたのは初めてだな。打算もあるのだろうが、良い成長だ。だが、私も暇ではない。私との勝負を望むのなら、まずは結果を出して見せろ」
「結果……つまり、そいつに勝てば良いんだな?それで、相手は誰なんだ?」
そう聞く飯垣に対して、丸井は人差し指を一本立てて答えてきた。
「それは、当日のお楽しみだ。場所はいつもの竹林でいいだろう。あそこなら他人に迷惑を掛けることも無いしな」
「ちょっと待って下さい先生。一応確認ですけど、1対1での勝負なんですよね?勝敗はどうやって決めるんですか?」
影沼が慌てて口を挟んできた。こういう細かいところは自分が聞いておかないと、知らないまま勝負することになりそうだったからだ。
(僕がここまで付き合ったのに、つまらない理由で負けられたら流石に面白くないしね)
「もちろんそうだ。勝敗は、そうだな……シンプルに相手を戦闘不能にするか、降参させるかだ。但し、故意に相手に大怪我を負わせるような攻撃は禁止だ」
その後、制限時間は特になし、武器の使用も無しなどの条件を確認して、次回の休日に勝負ということで話は纏まった。
丸井と別れた二人は、家への道すがら勝負について話していた。
「なぁ、丸井の用意する相手って誰だと思う?」
「う~ん。正直分からないね。丸井先生があんな条件を出してくるとは思わなかったし。もしかしたら、空離仙心流の門下生の一人とかかな?」
影沼があげた門下生という言葉に飯垣は驚く。
「は?この島に丸井以外にも空離仙心流の人間が居るのか?」
「いや、居ないと思うけど。休日なら一般の人が船で来ることも一応できるからさ。」
影沼は何でもなさそうにそう言った。確かに普段この島に異能者と関係者以外がやってくることはほぼないが、一応休日には定期船も通っており、一般人がこの島に来ることも可能ではあった。
「なんだ、驚かすなよ。でも、それなら確かに休日を指定したのも納得がいくな。どんな奴なのか楽しみじゃねえか」
「いや、あくまで予想の一つってだけだからね?どっちにしても、相手が分からないんじゃ対策の立てようもないしなぁ」
影沼の言葉を聞いて、飯垣も頷く。あの丸井が用意する相手なのだ。どんな人間かは分からないが一筋縄でいく相手ではないだろう。
「どっちにしても俺は俺にできることをするだけだ。灰斗、明日も修行の続き頼むぜ。」
「しょうがないなぁ。わざわざ手伝って上げてるんだから、当日は良い所見せてよ?」
「もちろんだ。どんな相手だろうが必ずぶっ倒してやる!」
そうして休日までの数日を飯垣は修行に費やしていた。
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そして対戦当日がやってきた。
普段、丸井が修行場所にしている竹林の広場には、既に丸井と対戦相手と思われる人間が待っていた。
それを見た飯垣は思わず声を上げた。
「あれ?お前、あの時の蜂女じゃねえか。何でお前がこんなところに居るんだ?」
「誰が蜂女ですか!……こほん。私がここに居るのは、お姉さまからあなたの対戦相手を任されたからですわ」
「八坂、前にも言ったが私はお前の姉ではない」
「(お姉さま、クールなところも素敵ですわ!)お姉さまを、お姉さまと呼ぶ
のは愛称ですわ。親しい方を呼ぶときのニックネームですの」
「愛称?…愛称…いや、しかし愛称に兄弟の名称を使うのはおかしいのではないか?」
「おかしくありませんわ!敬愛する方をお姉さまと呼ぶのは普通ですの!」
「そ、そうなのか。最近の若者たちの間ではそう言うのが普通……なのか?」
世間について疎い丸井は、八坂の発言に丸め込まれかけていた。だが、それに興味がない二人は気にしないことにして丸井に話を戻した。
「で、丸井が言ってた対戦相手ってのはこいつで間違いないのか?」
「ん?あぁ、それは本当だ。今回、飯垣に早坂と戦ってもらう」
愛称のことに気を取られていた丸井だったが、飯垣にそう聞かれたことで一旦そのことは脇に置いて、本題について返答してきた。
どうやら本当に八坂が対戦相手らしい。だいぶ予想とは違った展開に、飯垣と影沼は顔を見合わせていた。
「どうしましたの?あ、怖気づいたのであればリタイアして下さって構いませんのよ。そうすれば私はご褒美にお姉さまとデートをして頂けますの!」
「八坂、そんな約束はしていない。休日に出かけるのに付き合うといっただけだろう。だいたいデートというのは恋愛中の異性が二人で出かけることだ。私達に当てはまる言葉ではない」
八坂のデート発言を丸井はしっかりと訂正した。だが、出かける約束をしているのは本当らしい。それが八坂が今回、飯垣と戦う理由のようだった。
「もう、お姉さまはお堅いですわ。最近はもっと軽い意味で使われるんですのよ」
「よく分からん……」
未だに八坂の強引な理論に丸井は困惑させられていたが、そんなことはどうでもいい。八坂が対戦相手と言うのは間違いないようだ。相手にされてないことも含めて飯垣は闘志を漲らせた。
「好き勝手言ってくれるじゃねえか!そんなにしたきゃ好きにすれば良い。但し、俺に勝つことができればだがな!」
「あら、なかなか威勢がいいですわね。良いですわ。見事にあなたを降参させて、お姉さまとのデートを勝ち取ってみせますわ!」
「だから、…いや、まぁいい。二人ともやる気になったようだし、勝負を始めるとしよう。」
訂正を諦めた丸井の言葉によって、飯垣と八坂の勝負は開始を告げた。
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