第二十一話 不穏な気配

研究室の静寂を破るように、警報が鳴り響いた。電子機器が赤い警告灯を点滅させ、緊急事態を告げている。


「ま、マズイぞ。エネルギーの増加率が異常な数値になってきている!」


三島が叫ぶ。彼の顔には明らかな動揺が浮かんでいた。神崎主任がすぐにモニターに駆け寄り、数値を確認する。


「な、何でこんなに急激に増えて来てるんだ? 誰か変なことをしたんじゃないのか?」


「馬鹿言うな。唯一の貴重なサンプルに迂闊にそんなことするやつがいるわけないだろう。第一あの隕石がある部屋は常に監視されているんだ。何かした奴が居たら気が付かないわけがない。」


「じゃあ、何が原因なんだ!?」


「落ち着け! 騒いだって解決しない。まずは原因を調査するしかない。」


神崎は冷静さを保とうとしながら、急ぎ指示を出した。


「三島、エネルギーの増加率を詳細に分析しろ。発生源が特定できるかもしれない。佐々木、監視カメラの映像をチェックしろ。異常な動きがなかったか確認だ」


補助員の佐々木が即座に端末を操作し、録画映像をチェックし始める。一方、三島はエネルギーパターンの変化を解析しながら、徐々に表情を強張らせた。


「主任、これは……」


「何か分かったのか?」


「ええ。エネルギーの増加速度が、指数関数的に加速しています。このままだと……」


三島が言葉を詰まらせる。彼の手の震えが隠せない。


「このままでは、隕石のエネルギーが臨界点を超える可能性があります!」


神崎の目が鋭く光る。


「臨界点……? 爆発の危険性は?」


「分かりません。ですが、これまでのどの物質とも異なる特性を持つ以上、何が起こるか予測がつきません。最悪の場合、局地的な空間崩壊すらあり得るかと……」


研究室に緊張が走る。彼らはまだ、この隕石がどこから来たのかも、その目的すらも知らないのだ。


「主任! 映像に異常がありました!」


佐々木がモニターを指さす。その映像には、隔離室に置かれた隕石が淡い青白い光を放ち、徐々に浮かび上がっている様子が映し出されていた。


「何だ、これは……?」


「待て、これを見てください!」


三島が拡大した映像には、隕石の表面に現れる奇妙な紋様が映っていた。しかも、時間が経つごとに紋様は別の形に変わり続けている。


「…カウントダウン?」


見ていた誰かがそんな言葉を漏らした。


「まさか……」


神崎の胸に、得体の知れない戦慄が走る。この隕石は、ただの宇宙の残骸などではない。


「急いで解析しろ。このエネルギーの変化が、偶発的なものか、それとも意図的なものなのかを突き止めるんだ」


その瞬間——


突如として、研究所全体の電源が落ちた。モニターが一斉に暗転し、照明が消え、静寂の中に電子機器の微かなノイズが響く。


「停電か!?」


「非常電源は……くそ、起動しない!」


辺りはほぼ闇に包まれた。唯一、隔離室の中の隕石だけが淡い光を放ち、不気味に輝いている。


「…仕方ない。異能学園に連絡しろ!能力者の力なら何とかできるかもしれん。」


神崎は苦い表情で部下にそう指示を出した。

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