第九話 とうとう見つけたぜ・・・ってなんだそりゃ!?
八坂の襲撃?から二日後、放課後はトイレ掃除の罰を受けながらも、早朝の待ち伏せでとうとう飯垣は丸井の鍛錬場所を突き止めることに成功した。
丸井は竹林にやってくると中央に座りしばらくの間瞑想を行っていた。
(こんなんで修行になんのか?座ってるだけじゃねえか)
飯垣がそう思いつつも見ていると、すっと立ち上がった丸井が急に竹林内をまっすぐに走り出した。道中の竹を紙一重で避けながら竹林の端まで来ると角度を変えてまた走るということを繰り返している。
やっとそれらしいことを始めたじゃねえかと思った飯垣だったが、自分の正面に近い方向で丸井が向かってきた時にあることに気づいた。
(目を閉じたまま走ってる!?)
そう。丸井は竹林の中を目を閉じたまま、かつ竹を紙一重で避けながら疾走していたのである。その上で竹林の端できっちり折り返していた。
足元は整備もされておらず、枯草などが積もり所々に筍も生えている。走りやすい地面とは言い難かった。
飯垣には丸井がどうやって、そんなことを実現させているのか全く理解できなかった。だが露木学園長との話を思い出して、理解できたこともあった。
(丸井はこの竹林という空間の全てを把握して、目で見なくともどこに何があるか分かっているからこんなことができているんだ!)
常識では考えられない、しかしこんなことが本当に可能であるのなら自分との闘いで一方的に倒されたことにも納得がいく。
目で見ずとも周囲全てが把握できるのなら、最適な動作を最速で行うことも可能になる。そのためには最適な動作を見極める判断力、瞬時に行動に移す瞬発力も必要になるが、これがそのための修行の一つなのだろう。
(ってことは、最初の瞑想もただ眼を閉じて集中力を高めていただけじゃなく、竹林の中央に立つことで周囲の状況を読み取っていたのか?)
学業面では絶望的な成績の飯垣だったが、戦いという点においては意外な鋭さを持っていた。そのため、初めて見た丸井の修行についてもかなり良い線までその内容を理解していた。しかし――
(肝心の周囲を把握するとかってやつは見て盗むなんて不可能じゃねえか?)
と思いながらも丸井が修行を終えるまで、その光景を見ていた。
「とうとう修行場所が見つかったんだ。良かったじゃない。それで、盗み見た成果は何かあった?」
「見ただけじゃ分かんねぇってことが分かった」
「なるほど。分かり易い感想だね。まぁ一日で理解できるようなものじゃないだろうし、色々試してみるしかないんじゃないかな」
「試すって言ってもなぁ。どうすりゃいいんだか・・・」
影沼と話しつつ、とりあえず丸井の真似でもしてみるかと考えていた。
放課後、飯垣は竹林に来ていた。ただそこは丸井の修行場ではない。
まずは丸井がやっていたことを真似てみようと考えたからだ。
竹林の中央で目を瞑る。
(周囲のものを把握する、だっけ?んなこといっても・・・ん?)
そこで飯垣は気づいた。目を瞑っていても近くにある竹の気配をぼんやりとだが感じることに。少し考えれば理由は簡単だった。さっきまでそこにあるのを目で見ていたし、時折風で葉の擦れる音が聞こえてくるからだ。
試しに目の前にあるはずの竹に手を伸ばすと予想通りその竹を掴むことができた。
(お?いけんじゃねぇか!)
調子づいてさらに近くの竹に手を伸ばすと、今度は掴もうとした手は空を切りそのままバランスを崩して倒れこんでしまった。
「痛って。くそっ、やっぱそう簡単にはいかねえか」
最初の一回は比較的簡単に掴めるのだが、竹を掴むために最初の位置から移動した状態で別の竹を掴もうとするとどうしても位置がずれるのだ。まぐれで掴めることもあったが、それは偶然の範囲を出なかった。
その日何度も試してみたが、結果は同じだった。
「へぇ。目を瞑ったまま周囲の竹を掴めるか、かぁ。確かに練習としては良さそうだね。そう言えば、僕も自分の家なら真っ暗でもある程度何があるか分かったりするし、やっぱり慣れなのかもね」
「そういえば、そうだな。空間を把握するってのはそういうことか?」
確かに自分の家であればある程度把握できる。つまりは空間を自分のものにできているということだ。だが、空離仙心流では常に周囲の空間を自分のものにできていなければならないのだ。いったいどんな修練を積めばそんなことが可能になるというのか。答えの出ない問いを考えている内に、休み時間の終了を告げるチャイムが鳴った。
授業中、いつも通り飯垣が机に突っ伏して寝ていると、「バンッ!」という音と共に机が揺れた。
「授業中に寝るな」
目を開けると、そこには教科書で机を叩いた丸井の姿があった。
「んあ?相変わらずうっせえな」
「授業中は授業に集中しろ。世界を広げようとしなければ私にリベンジするなど夢のままだぞ」
「はっ?」
言うだけいうと丸井は授業に戻っていった。
飯垣はそれをぽかんと見ていた。いつもであれば最初の一言を言った後は、すぐに授業に戻るのだ。授業に関係のないことを言うのは珍しいことだった。
「丸井先生があんなこと言うの珍しいね。なんかあったの?」
「いや、何もねえはずだけど」
何故丸井があんなことを言ったのか、理由が分からない二人は首を捻っていた。
放課後、再び竹林に来た飯垣は丸井の言った言葉の意味を考えていた。
(世界を広げる・・・このぼんやりと感じている竹の気配をもっと正確に、さらに広い範囲で把握しろってことか?んなこといったってなぁ。あと何だっけ?集中しろとか言ってたような・・・)
とりあえず、目の前の竹に集中してみる。時折風が吹いて竹が揺れ、ざわざわと葉の擦れる音がする。
さらに続けていくと少しずつ周囲の雑音が遠ざかっていき、より竹の気配を直感的に捉えられるようなそんな感覚が――
「あ~なんだこれ。なんかすごく疲れるんだけど」
何かを掴みかけたような気もしたが、飯垣の脳はそこで限界を迎え集中が途切れてしまった。
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