第十二話 空間の支配って何なんだよ!?
竹林での対戦から数日が経ったが、飯垣の心中は未だざわついていた。
「空間を支配し己のものとする」
丸井の放ったその言葉は、飯垣にとって謎そのものであった。
「くそ、支配ってそんなのどうすりゃいいんだよ?」
教室の窓際で腕を組みながらぼやく飯垣。
「集中はできてたんだ。少なくとも短時間なら周りの動きを感知できていた。それなのに、どうして丸井の動きだけは追えないんだ?」
「単純に実力差ってことでしょ?」
同じクラスの影沼灰斗が、呆れたように答えた。彼は教室の後ろの席で、スマホをいじりながら片手間に会話に加わっていた。
「ぐっ。そりゃわかってんだよ。でも、なんか納得いかないんだよな。感知できてるはずの相手の動きが追えないって、おかしくないか?」
「竹林の修行は基本で、動くものが相手でも同じことができないといけないって言われたんだっけ?うん。試してみようか。舞人、目を瞑った状態で僕を掴んでみてよ」
そう言って影沼は教室の中を不規則に歩き始めた。
影沼の突然の行動に戸惑いながらも飯垣は言われた通り目を瞑り、影沼の気配を探った。すると多少のブレはあるが、影沼が感知範囲に入るとそれに気づくことはできる。飯垣は進行方向を読んでその手を掴んだ。
「お?お見事。よく分かったね」
「このくらいはな。このくらいなら足音を頼りにすれば誰でもできるだろ?」
「そういえばそうだね。それじゃ耳栓を付けてもう一回やってみようか」
そう言って影沼はどこからともなく耳栓を取り出した。
「何でそんなもの持ってるんだ?」
「備えあれば患いなしってね。冗談はともかく、偶々だよ。集中したいときとかあると便利だからね」
影沼から耳栓を受け取ってもう一度試してみるが結果は同じだった。
「へぇ、やっぱりちゃんと気配を追えてるんだ」
「動いてる相手だと怪しいけどな。たぶん走ってたら無理だ」
「そうなの?それでよく先生の攻撃を避けれたね。早かったんでしょ?」
「気づいた瞬間に飛び退いてたんだよ。避けるだけなら細かい位置は関係ねぇからな」
「なるほど。そこも修行は必要そうだけど、先生の言葉の意味はそれだけじゃないかもね」
「どういうことだ?」
「やってみれば分かるよ。もう一回試してみよう」
「こんなの何回やっても同じだと思うぜ?まぁ、掴み切れずに手が当たるだけってことはあるかもしれねぇけど」
そう言いつつも飯垣は言われた通りに目を瞑り、影沼の気配を追うことに集中する。そして影沼が近くを通ったタイミングでその手を掴もうとした。
しかし、次の瞬間、確かにそこにあったはずの影沼の気配が無くなっていた。
「あれ?」
「うん。やっぱりこうなるよね」
影沼は予想通りの結果に頷いている。しかし、飯垣には何があったのか分からない。
「今のは何がどうなったんだ?」
「能力を使ったんだよ。掴まれる前にちょっと時間を止めたんだ」
「なんだそれ。ズルじゃねぇか」
「でも、丸井先生は同じ条件で僕の腕を掴んだよ?」
「は?」
正確には影沼は直前まで丸井に気づかれない様に行動していた分、不利ともいえるくらいの状況だった。
「つまり、あいつはお前が時間を止めてるのに動いたってことか?」
「正確に言えば完全に止めるのは僕にも無理なんだけどね。だいたいその解釈で間違ってないかな」
そう答えながら影沼は以前に受けた罰ゲームのことを思い出していた。
(きっとあれもその空間の支配っていう力の一端なんだろうな。ほぼ動けないはずの時間の中でどうやって僕の腕を掴んだのかは謎のままだけど)
「ってことは、丸井の奴に攻撃を当てるには、灰斗の異能に抵抗できるくらいの何かができないとダメってことかよ・・・無理じゃね?」
「でも、実現している人が居るわけだし何か方法はあるんじゃない?」
「う~ん。・・・隠してるだけで、あいつやっぱり異能持ちなんじゃねえか?」
「そう言いたくなる気持ちは分かるけどね。もしそうだったら、先生なら正直にそう言うんじゃないかな」
「だよなぁ」
つい納得できそうな理由を思い浮かべてみたが解決策にはならなかった。
しかし、飯垣は早々に立ち直って言った。
「よし!それじゃ、今日からまた修行だな」
「おぉ、意外と立ち直るの早かったね。まぁ、応援はするから頑張ってね」
「何言ってんだ。灰斗も手伝うに決まってんだろ?お前がヒントをくれたんだしさ。ってか、お前以外じゃ練習相手にならねぇじゃん」
すすすっと教室から出て行こうとする影沼を飯垣はそう言って引き留めた。
「あ~やっぱりそうなる?面倒臭いなぁ。寝不足になるの
「そんなこと言うなよ。ジュースくらいは奢るって」
「仕方ないなぁ。今回だけだよ?」
なんだかんだ言いつつも長い付き合いである影沼は、飯垣の修行に付き合うことにしたのだった。
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