裏街奇談巡杖記

ZZ・倶舎那

第1話 廃店舗の電話番号

 学校へ行くには国道を通って行くのが近道なのだが、殺風景なうえ埃っぽいので、裏道を通ることにしている。裏道は迷路みたいに何度も曲がって行かねばならないのだけれど、角を過ぎるたびに景色が変わるのが楽しい。

 この通学路で一番気になっているのは、古い一戸建ての店舗だ。すでに空き家になって長いらしく、大きな窓も、かつては白かった壁も、木製のドアも、鉛色の埃のベールで覆われている。窓から中を覗くと棚が2列に並んでいて、商品らしい箱もまばらに置かれている。

 なぜ、この店がそんなに気になるのかというと、家から4番目の角を曲がった路地の突き当たりに建っているからだ。その路地を歩く間、否応なくこの店を真正面に見ることになる。

 店の2階部分を覆う大きな看板は、ペンキが剥れて錆びたトタンがむき出しになっている。ただ、後から書き直しでもしたのか、紫色で書かれた電話番号だけは、やけにくっきりと残っている。

 その電話番号が変だということに気づいたのは、半月ほど前のことだ。どうも番号が日ごとに変わっているようなのだ。

 そんなことありえないとわかってはいるが、朝、その看板を見ると、「こんな番号初めて見る」とか「昨日とは末尾の数字が違ってる」などと思ってしまう。

 そこでスマホで写真を撮って確かめることにした。

 翌朝、看板の番号は見覚えのないものに変わっているように思えた。しかし、写真と比べてみると、まったく同じだった。文字のかすれ具合も違いはない。

 安心してため息が出た。でも、念のため、この日も看板の写真に撮っておいた。

 その翌朝。電話番号はやはり写真と同じだった。それにもかかわらず、昨日の番号とは違っている気がした。それで、もう一度写真を撮り、スマホのメモ・アプリにも番号を書き込んでおいた。

 そして、次の朝。看板の電話番号は写真と同じだった。だが、メモとは異なっていた。

「やっぱり……」

 スマホを持つ手が少し震えた。

 その時すぐに逃げ出すべきだった。だが、気づくと、その番号に電話をかけていた。

 1回のコールで電話はつながり、女性の声の自動音声が「この電話は現在使われておりません」と述べた。ほっとして切ろうとすると、

「よく気がついたなあ」

 という、しゃがれた老人の声が続いた。

 顔を上げると、店の扉が開いており、中から皺だらけの手がおいでおいでをしていた。

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