第13話 金無垢の仏像の呪い
もう何年も前の夏休みのことだ。
当時、小学3年生だった僕は、兄と共に母方の祖父母の家に滞在していた。
祖父母の家は里山の麓にあったので、僕らは毎日のように山や川辺を探検して遊んだ。しかし、8日目になるとめぼしい所は歩き尽くしてしまった。
そんな僕らに新たな探検先を教えてくれたのは、祖父の幼なじみの源さんだった。
源さんは夕方になると祖父母宅にやって来て、酒を飲みながら祖父とたわいもない話をしていく。その日は、横で夏休みの宿題をやっていた僕らにも声をかけてきた。
「あんたら毎日のようにあちこち歩いて、何してるのかな?」
「僕ら、探検しているんだ」
と僕が誇らしげに答えると、源さんはにこにこ笑って「それは、偉いことだな」と言った。
「探検はいいが、
兄は黙ってうなずいてみせたが、僕は意味がわからず聞き返した。
「キンムクジって何?」
「ほら、そんな根も葉もない昔話をするから、子どもが本気にするじゃないですか!」
と祖母が怒ったように言うと、源さんは「いや、本当にあったことなんだから」と言った。
源さんが言うには、金無垢寺というのは純金の仏像を本尊としたお寺の通称で、祖父母宅の裏山の中腹にあった。昔、その仏像を盗もうと2人の泥棒が忍び込み、像を取り合って殺し合いになり、2人とも死んでしまった。仏像は泥棒たちの血で染まり、それからはその仏像を見ただけで呪いがかかるようになったそうだ。
「どんな呪いがかかるの?」
怖わがりのくせに知りたがりの僕は、源さんにそう尋ねた。
「見た者も金無垢になっちまうのさ」
そう言って源さんは笑った。
金無垢寺を探しに行こう、そう言いだしたのは兄だった。
「でも、仏像を見たら金無垢になっちゃうよ」と言うと、兄は「大丈夫さ。鏡を使って見ればいいんだ。ギリシアの英雄はそうやって、見ると石になる怪物を退治したんだ」と言って、祖母の鏡台から拝借したらしい手鏡を見せた。
寺はすぐに見つかった。里山の林道脇にあり、藪の中でかろうじて形を保っていた。壁や柱はツタで覆われ、扉をなくした玄関はぽっかり口を開いていた。兄は手鏡を手に後ろ向きで、その中へ入っていった。
「あった。今も金ぴかだ」
そう言った瞬間だった。建物が崩れ、兄はその下敷きになった。
後で聞いたことだが、そこは寺ではなく、ただの民家だったそうだ。兄はいったい何を見たのだろうか。
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