第32話 非常口
そのスチール製の扉の上には、緑地に白い文字で「非常口」と書かれた表示灯があった。
扉自体にも白いプラスチック製のプレートが貼りつけてあり、そこには「関係者以外立入禁止」と書かれていた。
その扉は通学に使っている地下通路のまん中あたりにある。コンクリートの壁が延々続く殺風景な場所なので、近くを通る時は必ず目をやってしまう。見たいわけではないが、ほかに見るべきものがないのだ。
ただそれだけのことで、中がどうなっているのかとか、どこに通じているのかとか考えたこともない。
だから、なぜ開けてしまったのか、自分でもよくわからない。
気づいたら扉を開けていた。
すぐ我に返って、「まずいぞ」と思った。
急いで閉めようとしたが、扉の中の様子が目に入り、腕が止まってしまった。
そこにはサッカーコートが3つは入る大空間が広がっていたのだ。天井も高く、20メートル以上はあるように見える。
そんなに広い空間なのに、照明は一つもない。その代わりに、床や壁、天井を覆っている白いタイルのようなものが白い光をほんのりと放っている。
吸い込まれるように中に入り、しばらく歩いていくと、空間の中央に古めかしい木のデスクが置かれ、その向こうに男が座っているのに気づいた。
男は右手を上げ、こちらに向かって「おいで、おいで」のジェスチャーをしている。
無断で入ったことを咎めるのだなと思ったが、今さら逃げるわけにもいかなかった。仕方なく、じっとこちらを見ている男に向かって歩いていった。
男のところまで5分近くかかった。
男は喪服のような黒いスーツを着て、青と白のストライプのネクタイを締めていた。傷だらけのデスクの上には、帳簿のような本が開かれた状態で置かれていた。
「書類は?」
男は不意にそう言った。その瞬間、ここに来るには書類が必要なことを思い出した。
あせって言い訳をしようとしたが、こちらが口を開く前に男がぶっきらぼうに言った。
「手遅れだよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます