第2話 悪魔の数字

 これは、高校の同級生から聞いた話だ。

 彼は小学三年生の時に666が悪魔の数字だと友だちから教えられ、それから数字の6が怖ろしくなったという。6がつくものが身近にあると悪いことが起こる気がするので、そうしたものを極力取り除くようにしてきた。

 たとえば、マンガ本は6のつく巻だけ抜き出して押し入れにしまい、6がプリントされたTシャツは母親に気づかれないようにゴミ箱に突っ込んだ。トランプで遊ぶ時も、手札に6が回ってくると、たとえ勝負が不利にになっても、その札を手放すことを選んだ。外出時に6を見かけた時は、目をつぶってやりすごした。

 そんな彼にとって算数の授業は恐怖の連続だった。6一つだけでも怖ろしいのに、二つ以上現われると緊張して手が震えた。606や866といった数字に至っては、不意に666に変わる気がして、正視することさえ難しかった。

 そんなある日、算数の宿題が出された。プリントには簡単な計算問題が八つ印刷されており、その中に6は一つもなかった。安心した彼は、さっさとすませて遊びに行こうと考えた。ところが――

 最後の問題の解答が666だった。

 「悪魔にはめられた」と彼は思った。あわてて答えを消そうとしたが、うまく消せなかった。彼は消しゴムを投げ出し、頭を抱えた。「もう何をやっても手遅れだ。僕は呪われてしまった」胸の奥が冷たくなるのを感じながら、彼はそうつぶやき続けた。

 翌朝、彼は暗い気持ちで学校へ向かった。まんまと悪魔の罠にはまってしまった以上、怖ろしいことが間もなく起きるはずだったからだ。だが、教室に足を踏み入れた時、事態はさらに深刻だということに気づかされた。

 宿題はクラス全員に出されていた。つまり、クラス全員が呪われたということだ。恐らく先生は悪魔か悪魔の手先で、クラス丸ごと地獄に引きずり込むつもりに違いない。

 やがて始業時間となり、教室に入ってきた担任教師は、まず宿題の提出を求めた。級友たちは順番に席を立ち、教卓にプリントを載せていった。彼も仕方なく列に並び、プリントを出した。しかし、極度の緊張のためプリントの束を教卓から落としてしまった。

 それを見た先生の顔が魔物みたいにみにくく歪んだ。先生は彼ににじり寄ってくると、信じられないほど大きく口を開け、おおいかぶさってきた。

 彼は教室から逃げ出した。


 教室で倒れた担任教師は救急車で搬送されたが、病院で死亡が確認された。急性心筋梗塞だったという。

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