第3話 3の復讐

 小学校の同級生に、数字が生き物に見えるという女子がいた。

 彼女が言うには、1はキリンに似た動物、2はアヒルみたいな鳥、3はタヌキっぽいケモノ、4はサメみたいなサカナなのだそうだ(5から9までも聞いたはずだが、忘れてしまった)。

 数字は生き物の姿をしているだけではなく、それぞれに性格もあり、仲の善し悪しもある、と彼女は言った。「だから、仲の悪い数字が並んでいると、ケンカするんじゃないかとドキドキしちゃうの」

 そんな妙なことを考えているせいか、彼女は算数の成績がよくなかった。居残りさせられて先生の指導を受けているところを、何度も見た覚えがある。

 彼女はとてもおっとりした子だったが、一度だけ騒ぎを起こしたことがあった。教室の前の廊下で、学級委員の男子を相手に大泣きをしたのだ。彼女は泣きながら「3はいい子なの」などと訴えていたが、学級委員の男子はただニヤニヤ笑っているだけだった。

 この男子、学級委員をやっているだけあって教師のうけはいいのだが、気の弱い子をしつこくいじめたりする嫌なヤツだったので、この時も数字のことで彼女をからかったのに違いなかった。

 しかし、これほど激しく泣きわめくとは思わなかったらしく、彼の薄笑いは程なく苛立ちに変わった。そして、最後は彼女を突き飛ばすようにして、その場を立ち去っていった。

 それが原因なのかわからないが、その事件からひと月も経たないうちに彼女は転校した。

 その日からだ。クラスの大部分の生徒が3を書きにくくなったのは。3を書こうとすると手がこわばって動かなくなったのだ。まるで、3が書かれるのを嫌がって抵抗しているみたいだった。

 彼女を泣かした学級委員の男子が3階の廊下で転倒したのも、やはり同じ時期のことだった。顔面から床に倒れ込み、歯を3本折った。

 もっとも、学校はそうしたことを問題にせず、例年通り遠足が実施された。その往き道でのことだった。3号車のバスがヘアピンカーブを曲がりきれず、ガードレールに激突。バスは先頭部分が崖上に突き出す形で止まった。

 もう少し止まるのが遅かったらバスは転落しているところだった。噂によると同行して教頭先生は、「危うく3組がなくなってしまうところだった」とつぶやいたという。

 ケガ人はなかったが、遠足は急遽中止になった。なお、3が書きにくいということは、この日を境になくなった。

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