第19話 退院してきた友だち
長く入院していた友だちが退院した。
1年近くも病院にいたのに、とても元気で顔色もよく、少し背も伸びたようだった。闘病していたのではなく、長いバカンスにでも行っていたんじゃないかと思うほどだった。
入院中も自習していたため勉強の遅れもほとんどなく、すぐに授業に馴染んだ。クラスのみんなも、以前と少しも変わらない様子で彼と接した。
まるで入院なんかなかったかのように。
でも、なんにも変わらなかったわけではない。
彼は独り言をよく言うようになった。
いや、独り言とはちょっと違う。見えない誰かと話をしているようなのだ。
休み時間とかに一人で廊下の隅まで歩いていったかと思うと、誰もいない空間に向かって、なにやら熱心に話し出すのだ。
そこに何かがいるのを感じて話しているのか、何もない空間に向かって話しているだけなのか、僕にはわからない。ただ、時折、相手の話を聞いているようなそぶりもしている。
無心にやっているようでいて、人に見られるのはやはり嫌らしく、誰かが通りがかると口を閉ざし、その場を立ち去っていく。
入院が長かったせいで独りごとを言う癖がついたのだろう、と僕は思い、しばらくそっとしておくことにした。
しかし、見えない相手との会話は次第に頻繁となり、その相手も一人から二人、三人へと増えていった。
こうなるとさすがに、彼のことを変に思う者も増えてきた。「長すぎる入院でおかしくなった」などと、あからさまに言う者さえ出てきた。
もう放っておくわけにもいかないので、彼に直接、なぜそんなことをしているのか聞いてみることにした。
そう決意した日の昼休み。彼は屋上の隅にいて、見えない二人を相手に議論をしていた。
僕は足音を忍ばせて彼に近づき、頃合いをみてこう言った。
「よう。――誰と話をしているんだい?」
すると彼は、驚いたような顔をして、こう答えた。
「誰って――。君と話していたところじゃないか」
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