第20話 通学路の八尺様

 K子がかよう小学校には、通学路の怪談というものがある。通学路ごとに怖い話があるのだ。それによると、K子が使う通学路には八尺様が出るという。

 しかし、その八尺様は、ほかの場所でいわれているものとはちょっと違う。

 異様に背が高く、白いワンピースを着て、つば広の帽子をかぶっているということは同じなのだが、「ポポポポポポ」などとは言わない。この通学路の八尺様は、物真似がうまいのだ。

 通学路の八尺様は、そこを歩く人のうしろからついてきて、その人の知り合いの声で呼びかけてくるという。

 うっかり振り返ってしまうと、思いがけないほどの高さにある顔が、ぐぐぐと覆い被さってきて精気を吸い取ってしまう。

 だからといって無視して歩いていても危険だ。八尺様は頭越しに見下ろしてくるからだ。逆さまになったその顔を見てしまうと、精神が崩壊してしまう。

 でも、K子はそんな話をぜんぜん信じていない。

 もう5年以上もこの通学路を使っているが、八尺様らしきものを見かけたことはないし、見たという人にも会ったことがないからだ。

 昔の人の作り話に違いない。そう思っていた。

 そう思っていたけれども、万が一、八尺様に会ってしまったら全速力で走って逃げよう、とも考えていた。


 10月の初めの木曜日だった。

 なぜかその日は授業が早く終わり、K子は一人で通学路を家に向かって歩いていた。

 すると――

「K子、K子」

 と、うしろから呼びかけられた。

 Fちゃんの声だった。でも、Fちゃんのはずはなかった。

 1週間前からFちゃんは、K子と話をしなくなったからだ。

 だから、無視して歩いていると、

「K子、K子」

 と、また声をかけられた。

「うるさい!」

 K子は思わず、そう叫んでいた。

 Fちゃんの声で何度も呼ばれるのが、我慢できなかったのだ。

 八尺様だってかまうものか。K子はそう思って振り返った。すると――

 小さな小さな、ガシャポンのフィギュアみたいに小さなFちゃんが、K子の足元にいた。

「Fちゃん?」K子は恐る恐る言った。「本当にFちゃんなの?」

 だが、そのフィギュアみたいに小さなFちゃんは、「きゃー」と叫んで逃げていってしまった。

 Fちゃんだけではない。周りの人みんながK子から逃げていった。

「そうか」K子は思った。「わたしが八尺様だったんだ」

 そう気づいたK子は、とても自由だった。自由で孤独だった。

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