第21話 ブラックバイト
公園に着くと、もう2人は来ていた。
街灯から少し離れたところのベンチに座って、ケータイを見ている。ベンチの端と端に分かれて。
近づくと揃って顔を上げた。
「来たな」
左側のナナミンが言った。もちろん偽名だ。俺だってブルックって名乗っているから、お互い様だ。
「じゃあ、行こうか」
右側のウラハラが立ち上がりながら言った。このウラハラが一応リーダー格で、今日の現場を知っている。
本当は仕事ごとにメンツが変わるはずなのだが、ここ3回ほどは、この3人でこなしている。人手不足なのだ。
現場は複雑に入り組んだ路地の突き当たりの家だった。この道を迷わずに戻る自信はないが、ウラハラがいるから大丈夫だろう。
ウラハラの合図で俺たちは家の裏手に回った。窓を割るつもりだったが、裏口が無施錠であっさりと中に入ることができた。
そこはやけに広い台所で、流しが3つ、コンロは9口もあった。俺は食器棚の引出などを開けてみたが、金目の物は入ってなかった。
「おい、隣りの茶の間に誰かいるぞ」
ウラハラが小声でそう言って、俺たちを手招きした。
3人で踏み込んでみると、たしかに老婆が
「このばあさん、こんな暗いところで何してるんだ?」
ナナミンがぼそっとそう言うと、ウラハラは「ボケてるんだろう」と吐き捨てるように言った。
俺はばあさんのことより、明かりがひとつもついていないこの家の中で、どうして俺たちは室内がはっきり見えていることの方が気になった。
何かがおかしかった。
「金はどこだ?」
ナナミンがバールでばあさんの胸を小突きながら言った。しかし、ばあさんは何も言わず、ぴくりとも動かなかった。
俺はその時、そのばあさんに見覚えがあることに気づいた。
「一発かましてやれ」
ウラハラが面倒くさそうにそう言うと、ナナミンはニヤッと笑ってバールを振り上げた。そして、それを振り下ろした瞬間――
ぱっと、あたりがまっ暗になった。
いや、違う。
元から家の中はまっ暗だったのだ。なのに俺たちは室内の様子が昼間みたいによく見えていた。猫かお化けのように。
その能力?が急に失われたのだ、スイッチでも切られたみたいに。
あたりは本当に真っ暗な闇だった。自分の体があるのかさえもわからないほどに。
俺はあわててスマホのライトをつけた。少し遅れてウラハラも携帯していた懐中電灯をつけた。
ばあさんが消えていた。ナナミンもいなくなっていた。
「くそ、ばばあ逃げやがったな」
ウラハラが小さく怒鳴った。
「いや、そうじゃない。なんか、ヤバいぞ、ここは――」
俺はばあさんが消えたあたりを照らしながらそう言ったが、ウラハラは耳を貸さなかった。
「いいから、金を探せ。この部屋にあるはずだ」
そう言ってウラハラがタンスの引出に手をかけたとたん、ウそのタンスがラハラの体にのしかかるように倒れた。さらに、その上に茶ダンスも倒れかかった。
2つのタンスに押しつぶされたウラハラは、「ぐえっ」と言って泡だった血を吐いた。
助けようと手を伸ばしかけた時、タンスが立っていた壁にナナミンがめり込んでいるのが見えた。その額にはバールが突き刺さっていた。
その時になって、やっと俺は思い出した。
消えたばあさんが、前の現場でウラハラとナナミンに殴る蹴るの暴行を受けたお好み焼き屋の店主に、そっくりだということを。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます