第8話 露店めぐり
ヒロにとって遊び仲間の5人で鎮守様の秋祭に行くというのは、小学3年生の時からの、いわば恒例行事だった。今年も4時に1丁目のコンビニの前で待ち合わせて行くことになった。
道々どの露店に行くかで盛り上がった。祭に行くといっても目当ては参道に並ぶ露店で、肝腎の神社までは行かないのも、毎度のことになっている。
参道はいつもより人出が多かった。一同は馬鹿話で笑い転げながら、肩を寄せるようにして露店を冷やかしていった。ふと横を見ると、飴細工の職人が何か作っていた。飴のかたまりに職人がちょいちょいとハサミを入れると、それはキツネになった。
「見た? すごいな」
そう言って振り返ると、仲間はいつの間にかいなくなっていた。はっと思って人混みをかき分けながら探したが、30分近く歩き回っても見つからなかった。
綿飴だけ買って帰ろうか、そう思った時だった。
「ヒロ君?」
そう呼びかけられた。振り返ると、淡い水色の浴衣を着た女の子が立っていた。去年まで同じクラスだったタチバナさんだった。
「どうしたの、こんなところでぼーとして?」
「いや、仲間とはぐれちゃってさ」
ヒロがそう言うと、タチバナさんはふふふと笑った。
「なんだ、私と同じじゃん。じゃあ、迷子どうし、一緒に露店めぐりする?」
密かに好意を寄せていたヒロにとって、これは願ってもない申し出だった。彼はにやけないよう注意して「いいよ」と言った。
祭は人出が多いだけではなく、露店の数も例年よりずっと多かった。見たこともない食べ物や道具を売る店のほか、お守りやお札を売る店もあった。そんな露店を見て歩くうちに、神社に向かっているのかどうかもわからなくなった。
歩き続けるうちに、タチバナさんの顔は少しずつ変わっていった。鼻が前に伸び、目が吊り上がり、耳が尖っていった。
ヒロはびっくりし、このタチバナさんはお化けかもしれないと思った。でも、そのキツネめいた顔のタチバナさんも、ヒロには可愛く感じられた。
「ねえ、私の顔、怖くない?」
タチバナさんは不意に立ち止まって、そう言った。
「いや、怖くない。と言うか、可愛いよ」
渾身の告白だったが、タチバナさんの反応はよくなかった。彼女は目をそらして言った。
「嬉しい。でも、私は嫌だな。ヒロ君みたいなミミズ人間は」
「え!?」
驚いて自分の手を見ると、無数のミミズのかたまりとなっていた。顔もぐずぐずと崩れていくのがわかった。
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