第7話 猫のお札
出来心だったんだ、あんなことをしたのは。
あの日、私は、パワースポットとして有名なT**山に、高校の頃からの親友のメイと登った。参拝は早めに終わったので、帰りはケーブルカーではなく、歩いて下山することにした。ガイドブックには登山路は初心者でも楽に歩けるとあったので、ちょっとしたウォーキングのつもりだった。
ところが、私たちはそんなわかりやすい道で迷ってしまった。けもの道のような小道を2時間ほど歩き続けた末に、大きな古民家の前に出た。
その家はちょっとしたお寺の本堂ほどの大きさがあり、茅葺きの屋根だけでも普通の家の2階分の高さがあった。しかし、見捨てられて長いらしく、屋根には草が生え、雨戸の多くは破れていた。
近寄らない方がいいと思ったのだけれど、メイが「トイレが使えないか見てくる」と言って入り込んでしまったので、私も仕方なく後に続いた。
踏み込んだ部屋は仏間らしく、正面に立派な仏壇が据えつけられていた。だが、転居の際に持ち出したのか中はからっぽで、本尊が置かれていた場所にぶち猫が描かれたお札が1枚貼られているだけだった。
魔が差したのは、その時のことだ。「猫のお札って、ネットオークションで高く売れるんじゃない?」と思ってしまったのだ。メイが戻ってくる足音が聞こえると、私はあわててお札を剥がし、鞄の中にしまった。
思っていた通り、いや、思っていた以上の値段で、猫のお札は売れた。だが、喜びはほんの束の間のものでしかなかった。
その翌日、夜の10時過ぎに男が尋ねてきた。
男は四十代くらいで、スリーピースを着ていた。彼はインターフォンのモニターカメラに向かってニコニコと笑いながら「猫のお札を剥がしてくれたお礼に参りました」と言った。
「あのお札に私どもは大変苦労させられてきたのですが、あなた様のお陰で自由になれました。これは心ばかりのお礼です」
そう言うと男は菓子折りが入った紙袋をドアの前に置き、深々と頭を下げて去っていった。
「どうして私だとわかったんだろう?」
家を知られたことへの恐怖を感じつつ、私は男が置いていった菓子折りを回収した。部屋に戻って、それを床に置いたとたんだった。箱が破れて中から黒いものがたくさん飛び出してきた。それは無数の子ネズミだった。子ネズミは私の体の至る所にとりつくと、一斉に噛みついてきた。
私は悲鳴をあげて部屋から逃げ出した。すると、そこは、古民家の前庭だった。
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