第6話 見ていた猫

「ねえ、リエが死んだ時、天井からぶら下がっていた死体をじっと見つめていた猫って、本当に三毛猫なの?」

「本当だよ。俺、一度だけ、その猫を見たことがある。リエはその猫のこと、すごく可愛がっていたから、リエが死んだ後も離れたくなかったんだろう」

「それで、いじめた連中に復讐しているっていうの? バッカみたい。そんなこと、ありえないじゃない。だいたい猫がどうやって復讐するの?」

「復讐するんじゃなくて、いじめたグループの誰かが死ぬと、決まって三毛猫がその死体を見に来るのよ」

「リエの猫が?」

「知らない。噂では、リエが飼っていたのとそっくりな三毛猫だったというけど、噂だから」

「噂、噂、噂。みんな噂なんだよ。誰もそんなところ見てないんだよ。なのに、なんで、そんなものにびくびくするの?」

「ミサキが通学路で逆走車にひかれた時、死体は電柱に押しつけられて、背中側にくの字に曲がっちゃったんだけど、電柱のうしろの塀に三毛猫がいたって。3組のアリサが見たって言ってた。リエに『早く死んでくれない?』って言ったの、ミサキだったよね」

「アリサが見たって? 嘘つきアリサの話なんて信じられないよ。あの子、何でも知ったかぶりして、見たとか、知ってるとかいうんだから」

「遅刻しそうだったトシが、駆け込もうとして校門前の段差でつまずいて、門扉に頭から突っ込んで死んだ時は、路上駐車していた車の上に三毛猫がいたってよ。トシのヤツ、リエをわざと転ばせて門扉でケガさせたよな」

「ああ、その猫なら、うちらが見てる。トシが登校してくる20分くらい前のことだけど」

「じゃあ、死んだ時は見てないんでしょ? その時も猫がいたのか」

「マミが体育館の階段で足をすべらせて、スカーフで首吊り状態になった時は、その猫、ステージの上から見ていたそうだよ。3人くらいから聞いた。写真を撮った人もいるっていうから――」

「写真があるのなら見せてよ。そうしたら、真実だって信じるから。猫が復讐してるって認めるから。そうでなかったら、私は絶対信じないからね。そこの窓に三毛猫がいるのだって、ただの偶然だから」

「窓に猫って、ここ三階だぞ。――それより、今、廊下から覗いたヤツ、リエに似てなかったか?」

「悪い冗談は、やめてよ! そんな話しかしないのなら、もう帰る。ここ変に暑いし、焦げ臭いし。――ねえ、ドア開かないんだけど!」

「おい、あの猫、笑ってるぜ……」

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