第10話 新参者の祭

「黒山神社の秋祭のことなんだが」と、村の長老は縁側に腰掛けるなり話しだした。「あんたも参加してもらえんかと思うてな」

「え、いいですか?」思いがけぬ申し出に、ヒロシは身を乗り出して聞き返した。「秋祭は古くからの氏子うじこしか参加できないと聞いていたんですが」

「うん、本祭ほんまつりはそうだな。あんたに参加してもらいたいのは、宵宮よいみやの行事なんよ」

「宵宮ですか?」

「ああ。本祭の前夜にやるもんなんだが、〝新参者の祭〟というてな、婿入り・嫁入りでこの村に移り住んだ者がやる決まりでな。ただ、嫁も婿も、ここ十数年来とらん。新しく村に来た者といったら、昨年移住してきたあんただけだ」

「それで、僕ですか……」また、よそ者扱いかよ、と思いながらヒロシは言った。「で、どんなことをするんですか?」

「まあ、肝試きもだめしみたいなもんだ」

 長老はしわだらけ顔を歪めて、にやっと笑った。

 長老の話によると、黒木神社の裏に「奥」と呼ばれている小屋があり、祭で使う道具などを置く場所となっているという。

「そこにな、一晩もっておればよいのさ。若い衆が時々脅しに来るが、決して戸を開けてはならん。日が昇ったら、試練はしまいじゃ」

 それならできます、とヒロシは答えた。長老は満足そうにうなずき、「これを乗り越えりゃ、来年は本祭にも加われるからよ」と言った。

 当日、ヒロシは日暮れ前に小屋に入った。中には青年団からの差し入れという一升瓶が置かれていた。

 最初の脅しは12時過ぎだった。数人の男たちが「おー」と叫びながら建物のまわりを3周していった。

 次は2時半頃。うとうとしていると、鉄釘でひっかくような音がしてヒロシは飛び起きた。壁が破れるんじゃないかと思うほど激しくひっかいた後は、どしんどしんと体当たりをしてきた。熊かと思ったが、「朝だ、朝だ、出てこい」と叫ぶのが聞こえて若衆だとわかった。

 3度目は、その1時間ほど後だった。戸の外で「開けてくれ」と甲高い声で叫んだかと思うとケラケラケラと笑う、その繰り返しが延々30分続いた。

 気がつくとヒロシは床に仰向けに眠っていた。スマホを見ると7時になっていた。

「ああ、終わった」

 ほっとして戸を開けると、外はまだ真っ暗だった。

「だーまーさーれーた」

 闇の中で誰かがそう言った。


 長老が小屋に行くと、首のない死体が部屋の真ん中に転がっていた。長老は言った。

「これであんたも、この村の者やな」

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