第5章 孝標女の源氏物語推し活、まずは仏像に祈る
その日、菅原孝標が家に帰ると娘が広間の木像の前で何やら祈るよう動きをしていた。それを見て、孝標はぎょっとした。
孝標は夕食を食べながら妻と会話していた。
「いったい、なんだあれは?」
「源氏物語が読みたくて、仏像に願掛けしていたそうです」
「物語は都にしかない。どうしようもない」
妻の話によると、その木像は自作した仏像だそうだ。自作と言っても娘が蚤や木槌を使って木材を加工して作ったわけではない。丸太のような木を適当に組み合わせて胴体とし、頭の位置には墨で描かれた顔が紙を張って、仏像ということにしていたのである。
「何?源氏物語が欲しいだと?」
「あなた、源氏物語を一巻だけ持ってきましたけど、逆に源氏物語に執着しちゃったみたいなんです」
孝標は思った。自作した仏像は、さすがに出来が悪すぎるし、その仏像に頭を下げる娘の姿は異様すぎる。
孝標は思案したが、思い付きで答えた。
「物語を自分で書くといいんじゃないのか?」
「あらあの娘はまだ十二歳ですよ」
「そろそろ、十三歳だろう。いきなり物語は無理でも日記でも書かせたらどうか?そのうちうまくなるだろう」
「今日から始めましょうか。日記はあとで清書させましょう。もし、この子が結婚して、子供も大きくなるころにはゆっくりと清書する時間もできるでしょうから」
源氏物語の話は一旦終わった。しかし、孝標の夕食は終わってはいなかった。
「あなた、豆はお嫌い?さっきからあまり進んでないようですけど・・・」
「ん・・・。ああ、豆ね・・・。豆か・・・、いま、食べようとしてたところだよ」
孝標は黙って、豆を食べ続けた。
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