第4章 平忠常の挨拶、まあ豆でも食べなよ
孝標と小湊の会話が終わるころ、別の郡司である久留里が血相をかいた状態で現れた。
「たいへんです。平忠常がここに向かっているそうです」
周囲の人間たちは急にざわつき始めた。平忠常は、将門の叔父にあたる良文の孫。元上総介であったが、国司の立場を利用して強引に地を奪って土着し、周辺では恐れられていた。
事情のよくわからない孝標は平然としていた。
そこに使用人が現れて、伝言を伝えた。
「申し上げます。平忠常は部下を伴い、面会を求めております。総勢、約五百名はいるものと思われます」
郡司の久留里が厳しい表情になった。
「国司様、これは強訴です。裏門からお逃げください」
そこに忠常が数名の従者を引き連れて現れた。
「はっはっは、何が強訴だ。今回はただの挨拶だ」
孝標も含め、誰も面会を許可していない。忠常は我が物顔で屋敷を見渡すと、孝標の正面にどかりと座り込んだ。忠常の周囲から国府側の人間は平伏しつつも距離と取っていった。
「下総の公民の件だけど、上総で見つかったかい?」
孝標は神妙な様子で答えた
「その件は調査中の故、詳細は申し上げられぬ」
「まあ、8千人ぐらいになるらしいね。しっかり調べなよ」
なぜか、忠常は具体的に行方知らずとなっていた下総の公民の数を知っていた。
「これは挨拶だ。豆でも食いなさいよ」
忠常が合図をすると、忠常の従者たちは大量の枝豆を運び込んだ。挨拶の手土産なのか。ひょっとして忠常は気が利くほうなのか?
「これで今年の税だからな・・・」
確かに、豆の量はすごかった。挨拶にしては多すぎると思えた。ただ、忠常の所領に対する納税の量とするには微々たるものであった。
簡単に言ってしまうと、今回の豆以外で納税しないという意味だったのである。
孝標はかつて「平氏物語」でも書いてみようかと言った。実際に見た平氏は強訴に来た平忠常であった。
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