第14章 我が娘はまだ貰い手がいないのだが・・・
ついに、菅原孝標の常陸国守としての任期を迎えることとなった。菅原孝標が出発する前日、菅原孝標の館では孝標周辺の人物が集まり、宴会が行われていた。
酒を呑んで饒舌になっていた孝標は検非違使の源頼貴に絡んでいた。
「どうかね、頼貴殿。我が娘はまだ貰い手がいないのだが、もしよければ・・・」
「私は、和歌が苦手ゆえ、ちょっと・・・」
「そうか、そうか。ひょっとして、私の娘と和歌のやり取りでもしたことがあるのかね?」
「一条通にてちょっとだけ」
孝標は冗談のつもりで言ったが、事実であった。都の大通りで孝標女が和歌の交換を行っていた青年貴族。それが、源頼貴だったのである。
「そうか、そうか、不思議な縁があるものじゃのお」
しかし、孝標は酔い過ぎていて、もう、何が何だかわからなくなっていた。
「私に和歌を教えてくれた恩師は橘家ともつながりがあります。じいの話によると橘俊通様には結婚するお相手がおられないようです。もし、都に帰りましたら橘俊通を訪ねてみてはいかがでしょうか?」
「なるほど、覚えておこう」
翌日、孝標は少々二日酔い気味であったが、予定通りに都に出発した。
例によって帰りは太日川まで塩丸が道案内をしてくれることとなっていた。太日川から向こうは武蔵国である。
「塩丸。いろんなところで縁があるな。この間は都まで来ていたよな」
「何のことでございますか?ひょっとして、国司様は冗談をおっしゃられているのですか?」
「はははは」
そのうち、孝標は馬の上で居眠りをしていた。
孝標の夢の中では、二人の武者が一騎打ちをしていた。一人は若武者、もう一人は公家風な顔立ちの長髪の武将であった。若武者はすでに額に傷を負っており、切り合うたびに劣勢に追い込まれていった。ついに、若武者が平伏、降参したかに見えたその時であった。「うてー」との掛け声とともに細筒から雷のような音が響き、直後に、長髪の武将が倒された。一瞬の出来事であった。
「足利義明、打ち取ったり!!」
ミツウロコの集団から勝鬨が上がった。
その様子を眺めていた孝標の耳の奥の方で誰かの声がした。
「勝って兜の緒を締めよ」
「ん?なんじゃと?いま何と申した?」
「孝標様、孝標様・・・、紐を結んでくださいませ・・・」
孝標に呼びかけていたのは塩丸だった。孝標の烏帽子は紐の結び目が取れて、紐がぶらぶらしていたところだった。
「は、烏帽子の紐が・・・。おっと、危ない、烏帽子が落ちるところであった」
「孝標様、夢でも見ておられましたか?もうすぐ、太日川、松里にございますよ」
孝標の目の前には四度目の太日川が広がっていた。
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