第13章 都からの検非違使と俘囚集団の来訪
孝標が常陸国に着任してから2年経過したころだった、都から新たな検非違使一行が派遣されてきた。検非違使の判官は源頼貴である。源頼貴の率いる一行は常陸国の国衙に詰所を構え、常陸国内と国司である菅原孝標の警備を行うこととなっていた。
その源頼貴の元に報告が入った。俘囚の集団が常陸国内の街道を南下し、那珂川付近まで接近しているというものだった。源頼貴は部下から細かい聞き取りを行った。
「人数はどのくらいか?」
‘「10人から100人ほどだそうです」
「正確な数がわかっていないではないか?そもそも、武器は持っているのか?集団の行先はどこか?ひょっとしてこの常陸国府に向かっているのか?」
「わかりません」
部下の回答は要領を得ないものであった。源頼貴は部下との問答は後回しにし、菅原孝標に報告するために国庁に向かった。平将門の乱の後に再建した建物はまだ新しかった。
源頼貴は菅原孝標の執務室の文官に尋ねた。
「国司様はどちらに?」
「こしのびの森に行かれました」
「こんな日に限って不在とは・・・」
孝標外出のために肩透かしとなった。しかし、こしのびの森に向かった国司。南下する正体不明の俘囚の集団。二つの情報が交錯し、源頼貴の中で一気に緊迫感が高まった。詰所に帰ると休憩室でくつろいでいる部下たちの姿が目に入った。
「いったいいつまで休憩しているのか!?俘囚の集団の件、もう一回、調査しに行ってこないか!」
「はっ」
源頼貴の大声に驚き、部下たちは一斉に出発していった。
次に部下たちが帰ってきたとき、俘囚たちは縄で捕らえられた状態であった。
「俘囚14名を連行いたしました」
「誰が、固縛しろとを言った!!すぐに縄を解け!!!」
奥州で朝廷と蝦夷は激しい戦闘を行ったが、地方に移住された俘囚は手厚く管理されていたのである。そういった細かい事情を都の検非違使たちは知らなかったのだ。
俘囚集団の代表は阿久利というもので、今回の南行の目的を説明してくれた。
「我々は安部頼良様の治める胆沢より参ったものであります。我々のいる奥州は藤原師道・登任が遥任されておりますが、毎年、税負担がきつく、今年も納税がまかりなりません。その窮状を都まで訴えに参るところです」
「訴状はあるのか?」
「こちらに」
「ふむ、なるほど。しかし、ここからでも都まではかなりの旅になろう。この訴状はこちらで預かるので、その方らは奥州に戻られるとよいだろう」
源頼貴は訴状を受け取ると、俘囚集団は素直にその指示に従った。しかし、阿久利を送り出す時だった。一瞬、頼貴と阿久利の目が合った。
阿久利は、よく見ると右眼の白目が血の色で赤く染まっていた。まるで、地獄の血の色のような赤の色であった。その右眼がぎょろぎょろと動いた。
「おぬしの顔、どこかで見たことあるかな・・・」
「国府の警備の仕事がある故、これにて失礼する」
源頼貴は訴状を預かると言ったが、都に出すわけにはいかなかった。源氏と藤原氏は代わる代わる奥州国司を歴任しており、源頼貴周辺の源氏一族も奥州から収奪した税で恩恵を受けていたからである。源頼貴は俘囚たちとは面識はないが、面影を感じ取られてしまったのであった。
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