第9章 孝標女の源氏物語推し活、浮舟の話が止まらない
菅原孝標一行は太日川を船で渡ろうとしていた。太日川の向こう側は武蔵国である。
しかし、ここで舟と聞いて、娘は眼を輝かせた。源氏物語の登場人物、浮舟を連想したからだ。ひたすら浮舟を説明する孝標の娘。止めようにも止まらない。挙句の果てには「いつか、浮舟の故郷の常陸にも行ってみたいわ」とまで言い出した。孝標は「都に帰るんじゃなかったのか?」と独り言を言った。
舟を漕ぎだして、しばらく行くと、孝標の娘は船の外へ身を乗り出して水面に手を伸ばした。母親がすかさず注意した。
「あなた、何をしているの。本当に浮舟になっちゃうわよ」
孝標の娘は、荷物の中にあった花びらの束を水面へ浮かべた。川の下流側に花びらたちが広がり、流れていった。花びらには屋敷で拾った松かさも含まれていた。娘はその様子を見ながら、和歌を詠み始めた。花びらが川面に広がる様子の和歌である。用意周到である。仏像をわさわざ自作する娘である。孝標と妻はしばらくあきれながら眺めていた。
「うふふふ」
このことをあとでどのように日記につけようか、そのことをかんがえながら孝標の娘の顔はにやけていた。
なお、孝標の娘の流した松かさは、川辺に流れ着き、何百年後には松林となったようであった。
簡単解説 浮舟ってだれ?
浮舟は常陸国守など国司を歴任した父の影響により、諸国を転々としたのち京に戻ってきますが、光源氏の息子の匂宮と頭中将の息子の薫という二人の貴公子から言い寄られ、浮舟は入水します。奇跡的に浮舟は助かり、寺に保護されます。そのことを聞きつけた薫は、再び浮舟に言い寄りますが、相手にされません。源氏物語では貴公子たちがやりたい放題でしたが、最後の最後で浮舟が一矢報いて、源氏物語は終わりを迎えるのです。
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